インボイス以降の消費税。積上げ計算と割戻し計算の違い解説|澁谷税理士事務所

消費税計算においては、「割戻し計算」と「積上げ計算」というものがあります。

ほとんどの事業者は「割戻し計算」を採用しますが、一部の業種では「積上げ計算」を採用した方が税務上のメリットがある場合があります。

目次

本コラムの対象事業者

小売業や飲食店業など、以下の様な業種の事業者は要チェックです。

  • 1回の領収金額(売上)が少額
  • 領収回数(売上回数)が多い

積上げ計算とは

後述しますが、取引回数が膨大になる業種の場合、1円未満の端数が大量に積みあがった結果、税額に影響を及ぼすことがあるため、積上げ計算を採用した方が良い場合がある、というものです。

先に結論から言えば、以下の項目全ての対応が難しい場合、「税務上のメリット」<「事務負担」となってしまう、又は、そもそも積上げ計算を採用できない可能性があります。(簡易課税を採用している場合の話は割愛します)

  • 「自身が交付する全インボイス上の消費税端数処理方法」を全て統一している
  • 使用している会計ソフトの端数処理機能により、課税期間中に「自分が交付した全インボイス上の消費税額の合計額」を集計し会計ソフトへ反映することができている
  • 会計ソフト上で、「仕入れの税込価額×10/110」によって算出した消費税額が、仕訳帳などの帳簿に記載されている

売上税額

割戻し計算(原則)

売上税額={標準税率の対象となる税込売上額*(7.8/110)}+{軽減税率の対象となる税込売上額*(6.24/108)}
国税庁HPより抜粋

「税込330円(10%)」の売上が500,000回あったとします。

割戻し計算の場合、売上税額は以下の通りとなります。

①330円×500,000回=165,000,000円
②①×7.8/110=11,700,000円

積上げ計算(特例)

計算方法

売上税額=適格請求書等に記載した消費税額等の合計額*(78/100)
国税庁HPより抜粋

「税込330円(10%)」の売上を500,000回行ったとして、インボイスに記載した消費税額が「30円」だとします。

①30円×78/100=23.4円 → 23円(1円未満切捨てを採用している場合)
②①×500,000回=11,500,000円

割戻し計算と比較すると、売上税額が200,000円だけ少なくなっています。販売回数を500,000回の例ですが、もし販売回数がさらに多い場合、この差はさらに大きくなります。

売上側に関しては、積上げ計算の方が売上税額が少ないので、こちらが有利ということになります。ただし、500,000回もの売り上げ回数になる業種は限られるので、全ての事業者に関係のある話ではないです。

また、この僅少な端数がどうなるかという検討をするためには多大な事務負担がかかります。それをやってまで検討したいかどうかというそもそも論もあります。

インボイスへの税額の記載

積上げ計算を採用したい場合、「インボイス」又は「簡易インボイス(例:レジから出力されたレシート)」の写し(自分が交付したもの)を保存していなければなりません。

また、「簡易インボイス」の場合、「インボイス」よりも記載すべき事項を省略できる項目がありますが、記載すべき項目の1つに「適用税率」又は「税率ごとに区分した消費税額等」があります。

「簡易インボイス」に「適用税率」しか記載されていない場合、「適格請求書等に記載した消費税額等」が存在しないので、積上げ計算を採用することができません。

種別消費税額等の記載積上げ計算
インボイスあり
簡易インボイス適用税率のみ記載している場合:なし不可
消費税額等を記載している場合:あり

適格請求書等に記載した消費税額の合計額

「自分が現実に交付したインボイスに記載した消費税額」を集計する必要があります。

会計ソフトには、消費税の端数処理方法をどうするかを設定する機能が付いていますが、その機能で、「自分が現実に交付したインボイス上の、消費税の端数処理方法」を登録します。

そのため、「あるときは切捨てしているインボイスを交付」、「あるときは四捨五入しているインボイスを交付」といったことをしている場合などは、会計ソフト上で「自分が現実に交付したインボイスに記載した消費税額」を集計・反映することができず、積上げ計算は採用できないと思われます。

この時点で既に無理そうなのであれば、「事務負担」>「積上げ計算採用によるメリット」となってしまうため、積上げ計算を採用することはおすすめしません。

「自分が現実に交付したインボイスに記載した消費税額の合計額」⇔「会計ソフト上の仮受消費税の金額」を一致させる必要がある。

仕入税額

積上げ計算(原則)

仕入税額 = 請求書等に記載された消費税額等のうち課税仕入れに係る部分の金額の合計額 * (78/100)
国税庁HPより抜粋

「税込660円(10%)」の仕入れを、750,000回おこない、請求書等に課税仕入れになる消費税額等として「60円」と記載していたとします。

①60円×78/100=46.8円 → 46円
②①×750,000回=34,500,000円

請求書等積上げ計算

交付されたインボイスに記載された消費税額を使用する方法ですが、現状、この方法を採用するには専用のシステムが必要になるので採用する人はおそらくいないでしょう。

まさか手作業で全てのインボイスの数字を拾っていくことはできないためです。

帳簿積上げ計算

こちらは課税仕入れの都度計上した仮払消費税を、会計ソフトに計上しているときに採用できる方法です。

「相手から貰ったインボイスに記載されている消費税」を集計するのではなく、仕訳計上の都度、「税込×10/110」の消費税額が、仕訳帳や総勘定元帳に計上されていれば良いと考えられています。

(2) 帳簿積上げ計算

 (1)以外の方法として、課税仕入れの都度(注1)、課税仕入れに係る支払対価の額に110分の10(軽減税率の対象となる場合は108分の8)を乗じて算出した金額(1円未満の端数が生じたときは、端数を切捨てまたは四捨五入します。)を仮払消費税額等(注2)などとし、帳簿に記載(計上)している場合は、その金額の合計額に100分の78を掛けて算出する方法も認められます。

『No.6391 課税仕入れに係る消費税額の計算』より

割戻し計算(特例)

仕入税額={標準税率の対象となる税込仕入額*(7.8/110)}+{軽減税率の対象となる税込仕入額*(6.24/108)}
国税庁HPより抜粋

「税込660円(10%)」の仕入れを、750,000回おこなったとします。

①660円×750,000回=495,000,000円
②①×7.8/110=35,100,000円

積上げ計算の方が、仕入税額が少なく、割戻し計算の方が多いため、仕入れ側に関しては、割戻し計算が有利ということなります。

750,000回もの取引回数が生じる業種であったとしても、600,000円の差しか出ません。

750,000回もの取引が生じる業種は限られるので全ての事業者に関わる話ではありません。

組み合わせ

有利×有利 はNG

売上仕入備考
割戻し計算(原則)※不利割戻し計算(特例)※有利多くの事業者はこれ
積上げ計算(原則)※不利請求書等積上げ計算不利×不利は想定されないと思われる
帳簿積上げ計算不利×不利は想定されないと思われる
積上げ計算(特例)※有利積上げ計算(原則)※不利請求書等積上げ計算請求書等積上げ計算は専用システムが必要
帳簿積上げ計算多売の事業者が想定される

「売上側:積上げ計算(有利) × 仕入側:割戻し計算(有利)」は認められていません。

また、「有利」「不利」といっても、1円未満の端数の積み重ねによって生じる差の話なので、取引回数が少ない業種の場合には影響額はゼロ又はかなり僅少です。

2以上の業種があるとき

業種売上仕入
小売業積上げ計算積上げ計算
卸売業割戻し計算積上げ計算 ※割戻し計算NG

小売業で既に積上げ計算を選択してしまっているので、卸売業の仕入れで割戻し計算を選択することはNGです(インボイス通達3-13)。

業種による

金額によっては端数が生じない数字もあると思いますので、断定はできませんが、一般的には、以下の組み合わせが有利ということになります。

※以下の組み合わせが有利とならない場合もありえます。

取引回数組み合わせパターン
売上回数 > 仕入回数積上げ計算(売上)×積上げ計算(仕入)
売上回数 < 仕入回数割戻し計算(売上)×割戻し計算(仕入)

事務負担との兼ね合い

種別事務負担
割戻し計算少ない
積上げ計算大きい

積上げ計算は、取引回数ごとの数字を集計するものです。

また、そもそも会計ソフトの仕様上の制約がある場合もあるので、既に使っている会計ソフトがある場合は、当然その会計ソフトの機能が許す範囲内でしか選択できません。

手作業で積上げ計算を行うことは現実的でないからです。

端数処理

区分項目端数処理
記帳「帳簿積上げ計算」における仮払消費税の計上課税仕入れに係る支払対価の額(税込)×10/110
→ 1円未満切捨てor四捨五入
※切上げNG
税額計算課税標準額(売上の税抜)税込売上×100/110
→ 1,000円未満切捨て
課税標準額に対する消費税額
(売上税額)
課税標準額×7.8%
→ 1円未満切捨て
課税仕入れに係る消費税額
(仕入税額)
税込仕入×7.8/110
→ 1円未満切捨て
売上返品等の消費税額1円未満切捨て
貸倒れに係る消費税額1円未満切捨て
売上税額-仕入税額100円未満切捨て
還付金1円未満切捨て
※還付金に相当する消費税額が1円未満→1円とする
経理業務インボイスに記載する消費税額等1つのインボイスにつき税率ごとに1回、
1円未満の端数を処理(切上げ、切捨て、四捨五入のうち任意の方法)
を行う。

参考元情報

01-16.pdf (nta.go.jp)

invoice14b.pdf (nichizeiren.or.jp)

その他参考コラム

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