本コラムでは以下のような方を対象として、未確定債務について解説しています。
- インボイス制度開始に伴って課税事業者となった小規模の法人
未確定債務とは
「未確定債務」というワード自体、なじみのない方にとっては分かりにくいかもしれませんが、ざっくり言えば「自分が購入側だった場合で、相手方からまだ物・サービスの提供を受けていない状態(又は一部しか提供されていない状態)」をイメージ頂ければと思います。
宅配業者に何か荷物の発送を発注した場合、宅配業者がその荷物を届け終わった時点が「債務が確定」したタイミングです。
輸送中であれば「債務が未確定」と考えられます。
未確定債務と消費税
「課税仕入れを行った日」を特定する
仕入税額控除は「課税仕入れを行った日」の属する課税期間に行うことができます。
(仕入れに係る消費税額の控除)
第三十条 事業者((一部省略)消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が、国内において行う課税仕入れ(一部省略)については、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める日の属する課税期間の(一部省略)消費税額(一部省略)から、当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れに係る消費税額(一部省略)を控除する。
一 国内において課税仕入れを行つた場合 当該課税仕入れを行つた日
(一部省略)
消費税法 より抜粋
未確定債務に係る消費税は、「課税仕入れを行った日」がまだ到来していないので、到来しない限りは仕入税額控除は行うことができません。
この「課税仕入れを行った日」とはどのタイミングを指すのかについて通達に記載があります。
11-3-1 法第30条第1項第1号《仕入れに係る消費税額の控除》に規定する「課税仕入れを行った日」(一部省略)とは、課税仕入れに該当することとされる資産の譲受け若しくは借受けをした日又は役務の提供を受けた日をいうのであるが、これらの日がいつであるかについては、別に定めるものを除き、第9章《資産の譲渡等の時期》の取扱いに準ずる。(一部省略)
消費税基本通達 より抜粋
要は、何か資産を購入したなら「その譲り受けた日」が、何か無形のサービスを購入したなら「そのサービス提供を受けた日(サービス提供が完了した日)」が「課税仕入れを行った日」です。
取引ごとに、「課税仕入れを行った日」がどのようなタイミングを指すのか、通達に記載がありますが、情報量が多いので一例として請負契約があった場合の通達だけ以下に掲載します。
9-1-5 請負による資産の譲渡等の時期は、(一部省略)、物の引渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日、物の引渡しを要しない請負契約にあってはその約した役務の全部を完了した日とする。
消費税基本通達 より抜粋
上記の通り、「全部を完成して相手方に引き渡した日」「その約した役務の全部を完了した日」が「課税仕入れを行った日」ですので、仮に「発注した物の一部しかまだ完成していない」「発注したサービスの一部しかまだ提供してもらっていない」場合には、それは未確定債務としてその分の消費税額は仕入税額控除の対象外になると考えられます。
税務上の調整
以下のような会計仕訳を計上していたとします。
費用(未確定債務) | 1,000 | 未払金 | 1,100 |
仮払消費税 | 100 |
実務上、会計において計上された仮払消費税額・仮受消費税額から割り戻して消費税計算を進めることが多いですが、この場合の100は未確定債務1,000に係る消費税額のため、割り戻し計算時に100を考慮しないで消費税計算を進めることとなります。
未確定債務と法人税
債務確定の要件
ざっくりいうと、債務確定(=法人税法上認められる費用)となるためには要件があり、その要件を満たしていないにも関わらず、会計上費用として計上されている場合、未確定債務として申告書上で否認(加算調整)しなければなりません。
ここで言う「否認」=「課税所得を増やすこと」です(つまり税額が増える方向への調整)。
税務上の調整
以下は先ほどと同様の会計仕訳です。この場合、税抜の本体価格部分である1,000を法人税申告書上で否認(加算調整)します。
費用(未確定債務) | 1,000 | 未払金 | 1,100 |
仮払消費税 | 100 |
ちなみに、法人税申告書上の表現の仕方の問題ですが、別表5(1)で以下のように表現することもあります。
法人税計算上は未確定債務に係る費用=1,000だけ加算調整すれば良いのですが、消費税とのつながりを分かりやすくするためにこのような表現の仕方をすることもある、ということです。
区分 | ①期首 | ②減算 | ③加算 | ④期末 |
未確定債務 | 1,100 | 1,100 | ||
仮払消費税(未確定債務) | △100 | △100 |
消費税と法人税で足並みを揃える
前述の通り、未確定債務については消費税と法人税とで同時に税務調整をする必要があります。
いずれか一方だけ税務調整して終わり、とならないように注意しましょう。
ちなみに、通常、消費税確定申告書最終値と、試算表に計上されている未払消費税・未収消費税勘定の数字は、控除されなかった消費税(数百円~数千円程度)を除けば一致します。
しかし、未確定債務に係る消費税額が存在する場合はその分も一致しなくなります。
①未払消費税勘定残高 | 5,500 |
②消費税申告書最終値 | 5,620 |
③①-② | △120 |
④消費税差額(控除対象外) | 20 |
⑤未確定債務に係る消費税額 | 100 |
⑥③+④+⑤ | 0 |
課税事業者になった法人は要注意
規模の大きい事業者であればなんてことない内容ですが、特にご注意いただきたいのはインボイス制度開始に伴って課税事業者になった小規模の法人です。
消費税のことを考慮することに慣れていない事業者が大半だと思いますので、本コラムで記載しているような内容を誤る可能性大だからです。
事業年度をまたいで誤りが発覚したとき、法人税と消費税の修正申告に追われそのために事務負担が生じたり税理士報酬が増大したりといったことになる可能性があります。
とにかく入口の時点できれいにしておくことがマストです。
参考元情報
第1款 棚卸資産の譲渡の時期|国税庁 (nta.go.jp)
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