設計事務所を法人として設立すると、個人事業のときにはなかった手続きと税務判断が一度に発生します。
見落とされやすいのが、個人の建築士や建築代理士へ支払う報酬の源泉徴収です。対象となる業務の範囲が広く、少額の外注でも徴収漏れが起きます。
この記事では、創業支援に強い税理士が、会社設立時に済ませる手続き、源泉徴収の対象と納付期限、源泉徴収を誤ったときのペナルティ、設計案件の原価計上について整理します。
これから法人を設立する方と、設立1期目の設計事務所の方に向けた内容です。
設計事務所の会社設立手続き
建築士事務所の登録は法人として取り直し
個人で受けていた建築士事務所の登録は、法人にそのまま引き継げません。開設者が変わるため、法人として新規に登録を受けることになります。
登録先は事務所の所在地を管轄する都道府県で、専任の管理建築士を置くことが要件です。登記が完了しても登録が下りるまでは法人として設計等の業務を受けられないため、登記日と登録申請のタイミングは事前に組み立てておきます。
税務署へ出す届出と提出期限
| 書類の名称 | 提出必要となる場合 | 期限 | 緊急度 |
|---|---|---|---|
| 法人設立届出書 | 法人を設立した場合 | 設立登記の日以後2か月以内 | ★★★ |
| 法人設立・設置届出書(都道府県) | 法人を設立した場合等 | 事業を開始した日から15日以内(都税の場合) | ★★★ |
| 法人設立・設置届出書(市町村) | 法人を設立した場合等 | 自治体による | ★★★ |
| 青色申告の承認申請書 | 青色申告をしたい場合 | 以下のいずれか早い日の前日 ①設立の日以後3か月を経過した日 ②設立第1期目の事業年度終了の日 | ★★★ |
| 棚卸資産の評価方法の届出書 | 評価方法を選びたい場合 | 設立第1期目の事業年度の確定申告書の提出期限まで | ★☆☆ |
| 減価償却資産の償却方法の届出書 | 償却方法を選びたい場合 | 同上 | ★☆☆ |
| 有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出方法の届出書 | 算出方法を選びたい場合 | 有価証券を取得した日の属する事業年度の確定申告書の提出期限 | ★☆☆ |
| 定款の定め等による申告期限の延長の特例の申請 | 一定の場合で申告期限の延長の特例を受ける場合 | 最初に適用を受けようとする事業年度終了の日まで | ★☆☆ |
| 申告書の提出期限の延長の処分等の届出書・承認等の申請書 | 同上 | 延長を受けようとする事業年度終了の日まで等 | ★☆☆ |
| 事前確定届出給与に関する届出書 | 事前確定届出給与を支給する場合 | 設立の日以後2月を経過する日 | ★★★ |
| 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | 納期の特例の適用を受けたい場合 | 特になし (原則、提出した日の翌月に支払う給与等から適用) | ★★☆ |
| 特別徴収税額の納期の特例に関する承認申請書 | 納期の特例の適用を受けたい場合 | 特になし (納期限未到来の月から適用開始) | ★★☆ |
| 給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出書 | 同上 | 開設の事実があった日から1か月以内 | ★★★ |
| 適格請求書発行事業者の登録申請書 | インボイス登録する場合 | なるべく早く | ★★★ |
| 消費税簡易課税制度選択届出書 | 簡易課税制度を適用したい場合 | 事業を開始した日の属する課税期間の終了の日まで (設立第1期目の場合) | ★★☆ |
| 消費税課税事業者選択届出書 | 課税事業者となる場合 | 同上 | ★★☆ |
| 消費税の新設法人に該当する旨の届出書 | 新設法人に該当することとなったとき | その事由が生じた場合速やかに | ★★☆ |
| e-Taxの開始(変更等)届出書 | 電子申告をするつもりである場合 | なるべく早く | ★★☆ |
| eLTAXの利用届出 | 電子申告をするつもりである場合 | なるべく早く | ★★☆ |
| ダイレクト納付利用届出書 | キャッシュレス納付する場合 | なるべく早く | ★★☆ |
- ネットや市販の書籍で調べれば、「法人設立届出書」や「青色申告の承認申請書」「適格請求書発行事業者の登録申請書(通称:インボイス登録申請書)」などの話は出てくると思いますが、実際には検討すべき書類はこれだけあります。
- 「緊急度」は弊所の独断と偏見による基準ですので、事業者の状況によって変わることもあります。
- 法的に提出義務があるもの
- 法的義務はないが提出した方がよいもの
- 法的義務はないが提出すべきかどうか検討した方が良いもの
- 税務当局に提出する書類(税務書類)を単なる事務手続きだと認識している。
- 自力で適当に作成してしまい重要な欄がブランクのままとなっており、法的な効力に猜疑が残る状態となってしまっている。
法人設立届出書は、設立の日(設立登記の日)以後2か月以内に、定款の写しを添えて納税地の所轄税務署へ提出します。
青色申告の承認申請書は、設立第1期から適用を受けるなら、設立の日以後3か月を経過した日と第1期の事業年度終了の日のうち、いずれか早い日の前日までが期限です。1期目は赤字になりやすいため、この期限を逃して欠損金を翌期以降に繰り越せなくなると、影響が大きくなります。
役員報酬を支払う場合は、給与支払事務所等の開設届出書を、開設の事実があった日から1か月以内に提出します。あわせて源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書を出すのが一般的ですが、承認は提出した月の翌月末日にあったものとみなされ、適用されるのは翌月に源泉徴収する分からです。設立月に支払った役員報酬の源泉所得税は、原則どおり翌月10日までの納付になります。
社会保険・労働保険の加入手続き
法人は役員1人だけでも健康保険・厚生年金保険の適用事業所になります。新規適用届は、事実発生から5日以内に事務センターまたは管轄の年金事務所へ提出します。
従業員を雇うなら、労働保険の成立届と雇用保険の手続きも必要です。設計事務所は繁忙期にアルバイトや契約社員を使うことがあり、加入要件の判定を後回しにすると、保険料をさかのぼって求められることがあります。
個人の建築士・建築代理士へ報酬を支払うとき
源泉徴収が必要
個人の建築士や建築代理士に業務の報酬・料金を支払うときは、所得税および復興特別所得税を源泉徴収が必要です。設計事務所を営む場合で完全BtoBではない場合、源泉徴収事務から逃れることはできないと考えましょう。
会社員時代は、ご自身が「源泉徴収される側」でしたが、会社設立するとご自身が「源泉徴収する側」になります。
源泉徴収の対象になる業務の広さ
対象は設計や工事監理に係る報酬に限りません。以下のような業務もすべて源泉徴収の対象です。
- 工事の指導監督料
- 契約事務代行料
- 建築物に係る調査料や鑑定料
- 法令等に基づく手続きの代理報酬
- 「個人の建築業者等で建築士の資格を有しない人」が「建築士の資格を有する使用人」を雇用している場合に、その建築業者等に支払われるこれらの業務に関する報酬
- 建築士事務所登録を受けていない個人建築士
- 建築代理士の報酬
- 「建築代理士以外の人」で、「建築に関する申請や届出」の書類を作成し、又はこれらの手続の代理をすることを業とする人に支払う報酬
- 「個人の建築業者等で建築代理士の資格を有しない人」が「建築代理士の資格を有する使用人」を雇用している場合に、その建築業者等に支払われるこれらの業務に関する報酬
ご覧頂ければ分かる通り、建築に係る業務はほとんどすべて源泉徴収が必要と考えておきましょう。
設計と施工を同時に請け負ったとき
設計と施工を併せて行っている相手に、設計等と施工の対価を一括して支払うときは、建築士の業務に関する報酬部分と建築の対価に区分して、報酬部分について源泉徴収します。
ただし報酬部分がきわめて少額と認められるときは、源泉徴収しなくても差し支えないとされています。
ここの判断は困難な場合もあるため、税理士へ要相談です。
(設計等とその施工の対価を一括して支払う場合)
204-14 建築士の業務と建築の請負とを併せて行っている者に設計等とその施工とを併せて請け負わせた対価を一括して支払うような場合には、その対価の総額をその建築士の業務に関する報酬又は料金と建築の対価とに区分し、建築士の業務に関する報酬又は料金について源泉徴収を行うべきであるが、建築士の業務に関する報酬又は料金の部分が極めて少額であると認められるときは、源泉徴収をしなくて差し支えない。
〔弁護士等の報酬又は料金(第2号関係)〕|国税庁
外注先が法人のケース
報酬等を受け取る側が法人であれば、原則として源泉徴収は不要です。
つまり、「○○設計事務所」という名称だけでは個人か法人かを判断できないため、契約時に確認必須です。
源泉徴収のミスで生じるペナルティ
不納付加算税と延滞税
源泉徴収した所得税を法定納期限までに納めなかった場合、不納付加算税がかかります。税率は原則10%で、納税の告知を予知する前に自主的に納付したときは5%になります。
正当な理由があると認められる場合や、法定納期限から1か月以内にされた一定の期限後納付にあたる場合は、不納付加算税はかかりません。ただし過去の納付状況などの要件があるため、1日でも遅れたら必ず免除されるというものではありません。
納期の特例の対象外となる報酬
納期の特例(※1)でまとめて納付できるのは、給与や退職手当のほか、一定の報酬等に限られます。個人の建築士や建築代理士への報酬は、ここに含まれますが、この辺りの判断をご自身でおこなうのは危険なので必ず顧問税理士へ確認が必要です。
一方、たとえばデザインなどの報酬は対象外です。インテリアデザイン(室内装飾)や、庭園・ゴルフ場・遊園地等のデザインなどがデザインの報酬として挙げられています。個人のデザイナーへ室内装飾や外構の意匠を外注した場合、源泉徴収は必要でも、その分は特例の対象にならず、支払った月の翌月10日までの納付になります。
同じ「外注費」でも使う納付書と納期限が分かれるため、支払先ごとにどの区分の報酬かを整理しておく必要があります。判断に迷う支払があれば、個別にご相談ください。
通常は源泉徴収した税額は、毎月納付が必要ですが、一定規模の法人が一定の要件を満たすと、半年に1回の納付にまとめることが認められています。
納期の特例が取り消される場合
納期の特例は、税務署長が承認を取り消すことができるとされています。
取消しがあった場合、取消しの日が属する月分以前の各月分については、その日が属する月の翌月10日が納期限になります。たとえば7月中に取消しがあれば、1月から6月までの分は7月10日、7月分は8月10日が納期限です。半年分をまとめて納める前提で資金を置いていると、この短縮に対応できません。
設計事務所の原価の集計
請負収益に対応する原価の範囲
請負による収益に対応する原価には、その請負の目的となった物の完成または役務の履行のために要した材料費、労務費、外注費、経費の合計額のほか、受注や引渡しをするために直接要したすべての費用が含まれます。
設計事務所であれば、構造設計や設備設計の外注費、申請にかかる手数料、模型やパースの制作費などが想定されますが、税務上「原価」の定義が明確ではないので、「なぜそれを原価として整理したのか(またはしなかったのか)」をご自身で説明できるようにしておく必要があります。
決算期をまたぐ案件の仕掛品計上
設計・監理は着手から引渡しまでの期間が長く、決算期をまたぐ案件が必ず出ます。まだ収益を計上していない案件のために支出した外注費などは、その期の費用にはならず、仕掛品として資産に計上したうえで、収益を計上する期の原価にします。
仕掛品の計上を落とすと利益が過少になり、税務調査で否認されれば本税に加えて加算税や延滞税がかかります。逆に、その期の原価にできる費用まで資産に計上すると、納税額が過大になります。
設計事務所のインボイス登録
資本金1,000万円未満で設立した法人は、設立第1期と第2期について基準期間がなく、原則として消費税の納税義務が免除されます。ただし特定期間の課税売上高などによる判定もあり、必ず免税になるわけではありません。消費税の納税義務判定は、税理士でも誤ることがあるほど難解なので、自己判断せず必ず専門家へ相談しましょう。
一方、インボイス(適格請求書)の登録を受けると、免税事業者であっても課税事業者になります。設計事務所の取引先は工務店やデベロッパーなど課税事業者が中心(BtoB)で、登録の有無が受注に影響することもあります。
免税期間を取るか、初年度から登録するかは、取引先の構成と設備投資の予定によって判断が変わりますが、一般的に、設計事務所であれば法人のクライアントが多くなるため、インボイス登録をおこなう法人の方が多いと考えられます。
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