SES事業を営む会社で、フリーランスのエンジニアに業務委託して客先に常駐してもらっている場合、気になるのが「この契約のままで問題ないのか」という点です。
「業務委託かどうか」は契約書の表題ではなく働き方の実態で判断され、実態が雇用に近いとされれば、源泉所得税、消費税、社会保険の3方向で負担が生じます。
この記事では、税務と労務でどこを見られるのか、SESでとくに指摘されやすい運用はどこか、判断に迷ったときに何を確認すればよいのかをお伝えします。
偽装請負とは?
「偽装請負」「偽装フリーランス」「偽装準委任」
厳密には別個ですが、ほとんどの場合、「実態としては『雇用契約』であるにも関わらず、『雇用契約ではない契約』の形態をとっている」という状態のことを指します。
注意すべきは、「本人に悪気があったかどうかは関係ない」という点です。「偽装請負」等に該当する方の大半は悪気はありません。意図的に偽装してやろうという方々よりも、「結果的に『偽装』状態になっていた」という方々の方が多いように思います。
昭和の時代から存在するオーソドックスな論点であり、弁護士や税理士の間では定番中の定番テーマですが、創業期の経営者の方々の中には、これをよく知らないまま経営スタートしてしまう方も多いようです。
昭和の時代から存在し、過去に事例も複数あるにもかかわらず、令和の時代にもいまだに落とし穴にはまる方がいるということは、「法律上の常識」と「一般常識」がイコールになっていないということを意味するとも言えます。一般常識の感覚で間違えないような分野であれば、本人に悪意が無い限りは落とし穴にはまることも少ないでしょうが、偽装請負等についてはそのような論点ではありません。
- 自分の業種には関係ないと考えている。
- 契約書があれば何も問題無いと考えている。
- 悪気がなければなんだかんだ問題にはならないだろうと考えている。
契約書のタイトルは無関係
業務委託契約を結んでいても、働き方の実態が「雇用契約」に近ければ、税務でも労務でも「給与を支払っている」と判断されます。
SES事業で語られる「偽装請負」は、正確には二つの問題に分かれます。ひとつは、客先が作業者に直接指揮命令している状態で、労働者派遣法が問題にする請負の偽装です。もうひとつは、業務委託契約のまま働き方が従業員と変わらない状態、つまり労働者性が認められるケースです。
税務で外注費か給与かが問われるのは後者ですが、SESではこの二つが同時に問題になりやすい構造があります。客先という同じ場所で、客先の就業時間に合わせ、客先のチームの一員として働いてもらう以上、実態が雇用へ近づきやすいためです。
厚生労働省は、準委任契約であっても、実態として発注者と作業者の間に指揮命令関係があれば、契約の形式を問わず労働者派遣に当たるとしています。
よくある誤解
- フリーランス側と「業務委託契約」を締結しているから問題なしと考えている。
- 請負ではなく準委任契約だから偽装請負にはならないと考えている。
税務で外注費が給与と判断される5つの視点
国税庁は、支払った報酬が請負によるものか雇用によるものかを、次の5点を総合的に見て判断するとしています。
- 他人が代替して業務を行うことが認められるか
- 作業時間を指定されるなど、時間的な拘束を受けるか
- 作業の具体的な内容や方法について指揮監督を受けるか
- 引渡し前の成果物が不可抗力で滅失した場合でも、すでに行った業務の報酬を請求できるか
- 材料や用具等が報酬の支払者から供与されているか
これらは専門家ですら容易に判断することはできません。間違っても軽視しないようにしましょう。
いずれの基準も、どれかひとつで結論が決まるものではありません。5つのうち3つが雇用寄りでも外注費として通る会社もあれば、1つが決定的に効いて給与と判断される会社もあります。
だからこそ、自社の運用がどこに当てはまるかを具体的に見る必要があります。SESで問題になりやすいのは、時間の拘束、PCなど用具の貸与、作業指示の出どころの3点と考えられます。
SESでとくに指摘されやすい運用
稼働時間と勤怠の管理
会社や客先が出勤日や始業・終業時刻を決め、勤怠表の提出や遅刻・欠勤の連絡を求めている場合、時間的な拘束を受けているとみられる可能性があがります。客先の朝会や定例会議への参加を義務づけているケースも同じです。
委託であれば、受託者(フリーランス側)が自分の裁量で働く時間を決められる状態が前提のはずです。客先の入館可能時間といった制約があること自体は問題になりませんが、勤務時間や休暇の取得を会社や客先が一方的に管理しているかどうかは分かれ目になるかもしれません。
稼働時間に応じて報酬を精算する契約の場合、稼働時間の記録そのものは必要です。ただし、報酬を計算するために時間を記録することと、勤務時間を指示・管理することは分けて考える必要があります。
PCとソフトウェアの貸与
業務用のPCやソフトウェアのライセンス、開発環境を会社や客先が無償で提供している場合、「材料や用具等が供与されている」と判断される要素になりえます。業務委託先(フリーランス)はあくまでも自営業なのだから、仕事に必要な道具は自分の経費で準備するはずだという前提があるためです。
情報セキュリティの都合で、客先が貸与するPCの使用が条件になっている案件もあります。その場合でもPCの貸与は判断要素のひとつとして残るため、時間の拘束や指揮監督の面で雇用寄りの運用になっていないかをあわせて確認する必要があります。
作業指示と案件のアサイン
客先の社員が作業者に直接タスクを割り振り、作業の進め方や優先順位まで指示している場合、「業務の指示を受けている」と見られやすくなる可能性があります。会社側が案件を一方的に割り当て、委託先が断れない運用になっていることも同じ方向に働きます。
作業の進め方を委託先が自分で判断し、案件を選ぶ裁量や単価を交渉する余地があるほど、事業者としての実態は強くなります。
客先からの直接の指揮命令は、税務の判断に加えて、労働者派遣法上の偽装請負の問題にもつながります。厚生労働省は、会議やチャットツールで客先と作業者が情報を共有すること自体は直ちに偽装請負にならない一方、業務の遂行方法や労働時間を直接指示していれば偽装請負と判断されるとしています。
また、客先が特定の作業者を指名して業務に就かせたり、特定の者の就業を拒否したりすることも、客先が作業者の配置に関与しているとされる例として挙げられています。
給与と判断されたとき
源泉所得税の追徴
外注費として源泉徴収をしていなかった報酬が給与とされると、本来天引きすべきだった所得税を会社が過去分までさかのぼって納めることになります。納付が遅れたことに対する不納付加算税や延滞税も加わります。
委託先のエンジニアから後から回収できるとは限らないため、会社の持ち出しになる場合があります。
消費税の仕入税額控除の否認
消費税では、雇用契約またはこれに準ずる契約に基づく給与等を対価とする役務の提供は、課税仕入れから除かれます。
外注費として仕入税額控除を取っていた分が否認されれば、納める消費税額が増えます。報酬の金額が大きい会社ほど、この影響は源泉所得税より重くなる傾向があります。
社会保険と労働保険の遡及適用
労働者と判断されれば、健康保険や厚生年金保険の被保険者として届け出る対象になります。事業所と使用関係にある人が加入対象とされているためです。
あわせて、労働時間や最低賃金、割増賃金といった労働基準法のルールも適用されるため、未払い残業代を請求される可能性も出てきます。
追加の専門家報酬
上記のような対応はイレギュラー対応になりますので、追加税理士報酬や追加社労士報酬が要する場合もあります。きちんとやっていれば発生しなかったはずの業務が発生するからです。
特に、業務委託を活用している経営者は、顧問社労士がいないケースも多いと考えられますが、この場合、このような状況に陥っていることを助けてもらえる社労士を自力で探す必要があります。偽装請負等の状態の事業者は、まっとうな社労士事務所からは腫物扱いされることもありますのでその点も覚悟しておきましょう。
倒産リスク
上記の金銭的な負担が、一度に押し寄せてくることになります。これが原因で倒産することもあります。
くれぐれも「自分に限っては大丈夫だ」「みんなやっているから大丈夫だ」など、再現性の無い体験談に寄りすがることの無いようにしましょう。
準委任から請負契約に切り替えた場合の判断
契約を準委任から請負に切り替えても、実態が変わらなければ結論は同じです。成果物の完成を約束する請負契約であっても、会社や客先が勤務時間を決め、作業を直接指示し、PCを渡しているなら、判断の材料はそろってしまいます。
逆に、成果物と納期を明確に定め、作業の進め方も作業場所も委託先が決め、報酬が成果物の完成に対して支払われているのであれば、事業者同士の取引として説明しやすくなります。重要なのは名称ではなく、お金と裁量がどちらにあるかです。
フリーランス新法で増えた発注側の義務
2024年11月1日から、フリーランスに業務を委託する事業者には、取引条件の明示、原則として給付を受け取った日から60日以内の報酬支払い、募集情報の的確な表示、育児介護等への配慮、ハラスメント対策の体制整備といった義務が課されています。
SESで委託契約を続けるのであれば、報酬の締め日と支払日、業務内容、中途解除の取扱いを書面やメールで明示しておく必要があります。条件をあいまいにしたまま続けることが、労働者性を疑われるきっかけにもなります。
フリーランス新法は偽装請負等とは直接的には関係はありませんが、フリーランスへ発注する法人であれば必ず知っておかなければならないルールです。
契約と運用を見直すときの確認事項
見直すべきは契約書の文言よりも運用です。契約書に「指揮命令を行わない」と書いていても、実際に勤怠表で始業・終業時刻を管理していれば、書面の一文は根拠になりません。
確認されるのは、「稼働時間と勤怠を誰が管理しているか」「PCやソフトウェアを誰が負担しているか」「作業の指示を誰が出しているか」「報酬が時間ではなく成果に連動しているか」「そして委託先が他の案件や取引先とも契約できる状態にあるか」という「実態」です。「形式(契約書)」だけではありません。
どこまでが許容範囲かは、会社の規模、報酬の決め方、委託先の人数や勤務実態によって変わります。
ご自身の会社ではどの基準が当てはまるのか、外注費として説明するために何を整えればよいのかを一緒に整理したい場合は、契約書と直近の支払明細をお持ちのうえご相談ください。
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