旅費規程を作成し日当を支給すれば、会社から社長個人へ税負担なくお金を移せる。
そう説明されて数十万円ものコンサルティング報酬を支払ったものの、後になって不安になっている方、または、このスキームを導入したところ税理士から決算申告を断られた方が出始めているようです。
この記事では、日当が非課税とされる範囲がどこまでなのか、範囲を超えたときに法人と個人の双方で何が起きるのか、そして一度このスキームに手を出すと税理士から決算申告を断られるのはなぜかを整理します。今の状態を続けてよいか判断したい方に向けた内容です。
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旅費規程による日当支給
ここ数年、旅費規程を整備して日当を支給する形を「合法的な節税」として販売するコンサルタントが増えています。数十万円の費用で規程のひな形と運用マニュアルを渡し、会社から社長個人へ税負担なくお金を移せると説明するものです。
提案を受けた時点では違法性がないように見えるため、契約してしまう方が少なくありません。ただし、日当を支給しさえすれば支給額がそのまま非課税になる、という仕組みではありません。
しかし、そのコンサルタント自身はなぜか決算申告を受任せず、「提携税理士を紹介します」といわれて不信に思う方も多いのではないでしょうか。決算申告はいわば、税理士が自分の職業的知見にもとづいて、「自分がこの決算申告を担当しました」と言う宣言でもあります。つまり、ある意味、決算申告をおこなわない=関わりたくない、という見方もできます。
日当が非課税とされる範囲
国税庁の通達では、旅行の目的、目的地、経路や期間の長短、宿泊の要否、旅行者の職務内容や地位などからみて、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内の金品が、非課税とされています。
つまり、金額の物差しは「その出張で実際にかかると見込まれる費用」に置かれています。社長個人の手取りを増やすことを出発点にして金額を決める考え方は、この物差しとかみ合いません。
この部分を都合よく拡大解釈しているグレーな手法が横行しています。
旅費日当の制度趣旨
日当は、税負担を軽くするための制度ではなく、出張のたびに細かい実費精算をしなくて済むようにするための概算払いです。たとえば営業社員が何十人もいる会社で、個々の社員の数百円程度の細かい金額を、経理部門がちまちま経費精算処理しているとパンクしてしまいますが、このような状況を救済するための制度ということです。
消費税でも、従業員などに支給する出張旅費や日当のうち、その旅行について通常必要であると認められる部分の金額が課税仕入れとなり、一定の事項を記載した帳簿の保存により仕入税額控除ができる取扱いが設けられています。領収書の回収と精算にかかる手間を軽くするための取扱いであり、判定の基準はここでも「通常必要であると認められる部分」です。
事務負担の軽減という目的から離れ、支給したい金額を先に決めてから理由を後付けしていないか。ここが、まっとうな旅費規程とグレーなスキームの分かれ目です。
非常に小規模な法人の場合、そもそもこの制度が想定している「事務負担」が存在しないケースもあります。法人所有の交通系ICをクラウド会計に連携するだけで事足り、また、「マネーフォワードクラウド経費精算」などのアプリを使えば簡便に経費精算ができるためです。
非課税の範囲を超える日当が招く結果
個人側で生じる課税
勤務する場所を離れて職務を遂行するための旅行に対して支給された金品のうち、範囲を超える部分は、給与所得の収入金額に算入されます。会社には源泉徴収の漏れが生じ、受け取った本人の側では所得が増えることになります。
法人側で生じる課税
法人が役員に支給する給与は、定期同額給与、事前確定届出給与、一定の業績連動給与のいずれにも該当しないものは損金に算入されません。日当として処理していた金額が役員給与と扱われた場合、法人税の計算上、経費として認められない部分が生じます。
消費税についても、通常必要であると認められる部分を超える金額は課税仕入れになりません。その部分について仕入税額控除を受けていた場合、控除は認められないことになります。
つまり、源泉所得税の徴収漏れに伴うペナルティ、消費税の仕入税額控除の否認とそれに伴うペナルティ、社会保険料納付漏れとそれに伴うペナルティ、修正申告に伴う税理士報酬、社会保険料等の再計算に伴う追加社労士報酬、これらに対処するために時間を失う、といった後処理をおこなうことになります。
出張の実態が確認できない場合の取扱い
当然ですが、出張した事実がないにもかかわらず日当を支給している場合、純然な脱税(犯罪)です。金額が過大かどうかという問題とは別の次元になります。この場合、高確率で顧問税理士からも見放されることになります。
事実を仮装したと判断されれば、重加算税の対象となる場合があります。重加算税だけで済めばお金の問題だけですが、重加算税の対象=脱税(犯罪行為)ですので、税務当局のさじ加減次第では刑事事件に発展する可能性もあります。
規程と支給額の計算書だけがあり、いつどこへ何の用件で行ったのかを示す資料が一切残っていない状態は、実態の説明が最も難しい形です。
コンサルタントの提案に違和感を覚えたとき
節税スキームを提案してきたコンサルタントに少しでも違和感を覚えた場合、コンサルタントを試してみましょう。なお、そのコンサルタントが税理士ですらない場合は論外ですので割愛します。
旅費日当に限った話ではありませんが、決算申告を受任しない税理士は、ほとんどのケースにおいて、以下のいずれかに分類されます。
- そもそも実務経験が浅く決算申告ができない
- 責任を負いたくない
決算申告を受任する税理士=まっとうな税理士です。決算申告をおこなう際、税理士が税理士署名をおこないますが、これはいわば「自分がこの決算申告を管轄しましたよ」という宣言でもあります。スキームだけ提案しっぱなしで、その後の決算申告はやらない、というスタンスは、まともな専門家であれば取りません。
そのため、「なぜ決算申告を自分で受任しないのか」「税務調査には『あなたが』立ち会ってくれるという理解で良いか」を聞いて、そのコンサルタント(税理士)を試してみてください。
一度グレーな手法に手を染めると…
朱に交われば赤くなる
この種のスキームは一度使うと後の選択肢を狭めます。
グレーな手法に手を染めた事実が、帳簿などに痕跡として残ることになり、税理士や金融機関など、見る人間が見ればわかります。「複数の税理士に相談したが、どこも顧問や決算申告を引き受けてくれなかった」という状況に陥るのはこうした事情によるものです。
旅費規程そのものは違法ではありませんが、実態が伴っているとは言い難い日当支給をおこなっている時点で、まともな専門家や経営者からは腫物扱いされる可能性が高まることは理解しておきましょう。税理士からは白い目で見られることはもちろんですが、「まっとうな」経営者仲間からも、「あぁ…この社長はこういう危うい手法に飛びつきがちなタイプなのか…」と思われてしまうこともあるでしょう。
まさに「朱に交われば赤くなる」です。
軌道修正を検討している場合の選択肢
決算申告をどの税理士からも断られているという方のうち、「今後はまっとうに事業を営んでいきたい」という方に限り、一定の条件で、この状態からのご依頼をお受けしています(スポットで決算申告は受け付けておりません)。
ご状況によっては、弊所による関与開始事業年度から旅費規程そのものを廃止していただく、支給を止めていただくこともあります。これは「マイナス状態をゼロに戻す作業」とお考えください。
すでに支給を始めている、コンサルタントに説明を求めても回答がない、という状況でしたら、早い段階でご相談ください。
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