本コラムでは以下のような方を対象として、開業祝いの扱いについて解説しています。
- 新たに事業を開始して開業祝いを貰った個人事業主
結論
誰から | 税目 | 結論 |
法人 | 所得税 | 事業所得の収入 |
個人(事業関係者) | 所得税 | 事業所得の収入 |
個人(事業関係者以外) | 贈与税 | 非課税 |
以下で根拠を交えて解説してゆきます。
法人から貰った場合
贈与税は個人から何か贈与された場合にかかるものなので、法人から開業祝を貰った場合は、所得税の守備範囲となります。
そして、通常であれば以下により、一時所得の収入になります。
34-1 次に掲げるようなものに係る所得は、一時所得に該当する。
(一部省略)
(5)法人からの贈与により取得する金品(業務に関して受けるもの及び継続的に受けるものを除く。)
(一部省略)
所得税基本通達 より
しかし、開業祝で事業関係者から受け取ったものは、事業に付随した収入として事業所得の収入とされています。
(一部省略)
本件審査請求の争点は、本件祝金が非課税所得あるいは一時所得に該当するか、又は事業所得に該当するかにあるので、以下審理する。
(1)認定事実
当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 本件パーティは、医師等の同業者、医薬品関係者及び医療関係者に開院したことを知ってもらい、今後の診療活動がスムーズに行われることを目的に開催されている。
ロ 本件パーティへの出席者は、すべて請求人の事業関係者である。
ハ 本件祝金は、本件パーティへ出席した一部の者から総額で20万円を請求人が受領し、請求人は、その全額を当該年分の事業所得の総収入金額に算入するとともに本件パーティに係る費用を必要経費に算入して申告している。(2)関係法令等
イ 所得税法第9条第1項第15号は「相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するものについては、所得税を課さない。」旨規定している。
また、相続税法第1条の2《贈与税の納税義務者》は「贈与に因り財産を取得した個人は贈与税を納める義務がある。」旨規定している。
所得税法が個人からの贈与について所得税を課さないとしているのは、贈与税との二重課税を防止する趣旨のものであると解される。
さらに、贈与税の課税対象とされる贈与とは、一般に民法上の贈与(無償契約)であると解されているが、受贈者の事業に関して取引先等から受ける贈与については、取引先等である贈与者は、交際費、広告宣伝費等として支出することが多く、典型的な無償契約とは異なるものである。また、贈与税は相続税を補完する性格を持つ税として設けられたことからみても、事業に関して取引先等から受ける贈与については、贈与税課税になじまないといえる。
なお、法人からの贈与により取得した財産は、贈与税の課税価格に算入しないこととされている(相続税法第21条の3《贈与税の非課税財産》第1項第1号)が、この規定も、相続税を補完する性格を持つ贈与税の課税になじまないという趣旨で設けられているものである。(一部省略)
(3)原処分について
イ 民法は、私人間の法律関係を規律するという見地に基づいた定めであるのに対し、租税法は、収入の経済的実質を重視し、担税力に応じた課税の実現を期すものであることから、租税法上の贈与の概念は民法上の贈与の概念とは別異に解すべきである。
国税不服審判所HP『(平14.1.23裁決、裁決事例集No.63 153頁)』より抜粋
ロ ところで、本件祝金は、請求人が新たに事業として医療保健業を開業したことに伴い請求人の事業関係者から受領したものであることから、経済的実質から見れば事業の遂行に付随して生じた収入というべきであり、租税法上、このような収入についてまで贈与と解するのは担税力に応じた公平な税負担の見地からも相当でなく、上記(2)のイの相続税法及び所得税法にいう贈与には該当せず、非課税所得には当たらないと解するのが相当である。
また、本件祝金は、上記(2)のロの規定から事業所得に該当し、ハの規定から一時所得には該当しない。
ハ 以上のとおり、本件祝金は、事業の遂行に付随して生じた収入として事業所得に該当し、非課税所得又は一時所得には該当しないから、原処分は適法であり、請求人の主張には理由がない。
(4)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
ちなみに事業付随収入とは以下の通達のことです。
27-5 事業所得を生ずべき事業の遂行に付随して生じた次に掲げるような収入は、事業所得の金額の計算上総収入金額に算入する。(昭55直所3-19、直法6-8、平元直所3-14、直法6-9、直資3-8、平13課個2-30、課資3-3、課法8-9改正)
(1) 事業の遂行上取引先又は使用人に対して貸し付けた貸付金の利子
(2) 事業用資産の購入に伴って景品として受ける金品
(3) 新聞販売店における折込広告収入
(4) 浴場業、飲食業等における広告の掲示による収入
(5) 医師又は歯科医師が、休日、祭日又は夜間に診療等を行うことにより地方公共団体等から支払を受ける委嘱料等
(注) 地方公共団体等から支給を受ける委嘱料等で給与等に該当するものについては、28-9の2参照
(6) 事業用固定資産に係る固定資産税を納期前に納付することにより交付を受ける地方税法第365条第2項《固定資産税に係る納期前の納付》に規定する報奨金
所得税基本通達 より抜粋
個人(事業関係者)から貰った場合
個人から無償で何か貰った場合は、贈与税の守備範囲となりますが、前述の理由により、事業関係者から受け取ったものは事業所得の収入とされます。
そのため、法人から貰った場合と同様です。
個人(事業関係者以外)から貰った場合
贈与税の守備範囲
友人や親族などから貰う場合です。
前述の裁決事例において、
- 「今後のビジネスがスムーズに進むようにすることを目的としたパーティにおいてもらったものである」
- 「パーティ参加者は全て事業関係者」
- 「貰った側もパーティ開催のための費用を必要経費に計上している」
- 「あげた側においては今後の取引関係における見返りを求めている(無償契約とは異なる)」「事業関係者から貰ったのだから事業に付随した収入」
といった趣旨のことが明言されています。
友人や親族から貰う場合は、プライベートにおいて近しい間柄の人間からの純粋な個人的お祝いとして贈られるものですから、裁決事例で触れられているような理屈には当てはまりませんので、この場合は贈与税の守備範囲と考えられます。
課税されない
以下により課税されません。
21の3-9 個人から受ける香典、花輪代、年末年始の贈答、祝物又は見舞い等のための金品で、法律上贈与に該当するものであっても、社交上の必要によるもので贈与者と受贈者との関係等に照らして社会通念上相当と認められるものについては、贈与税を課税しないことに取り扱うものとする。(昭50直資2-257改正、平15課資2-1改正)
相続税基本通達 より抜粋
ちなみに、ネット上では「110万円(基礎控除)以下だから課税されない」という意見を見かけますがこれは間違いです。
「基礎控除以下だから課税されない」のではなく、「基本通達21の3-9に該当するから課税されない」が正です。
「そもそも課税の対象とならないもの」と、「課税の対象ではあるが、基礎控除以下だから結果的に贈与税が生じないもの」は似て非なるものですのでご注意下さい。
社会通念上相当
「一般常識で考えて違和感のない」という意味です。
例えばお祝いで数百万円貰ったとなると、「一般常識で考えて違和感のない」とは言えないかと思います。
こういう場合は基本通達21の3-9は使えません。
会計処理と勘定科目
事業関係者からお祝いを貰った場合の会計処理を解説します。
商品券
商品券は価値が券面にそのまま書いてあるので簡単です。
貯蔵品 | 20,000 | 雑収入 | 20,000 |
個人事業者の方で、「商品券なんか事業で使う機会がないからプライベートで使いたい」という方は以下の仕訳を計上すると、プライベートでその商品券を使えます。
貯蔵品 | 20,000 | 雑収入 | 20,000 |
事業主貸 | 20,000 | 貯蔵品 | 20,000 |
事業用のお金をプライベート口座に移動させるとき(事業で稼いだお金を生活資金用のプライベート口座へ移動させるときなど)と同じ考え方です。
現物のお祝い品
花束などを貰った場合、以下のようにPL科目が両建てになるため相殺されて0になります。
実務上はこの仕訳をそもそも計上していない方も多いかもしれません。
厳密にやるなら、貰った側が花束の金額などわかるはずがありませんので、ネットなどで相場検索するしかないです。
消耗品 | 10,000 | 雑収入 | 10,000 |
高価で珍しい物
花束程度であればともかく、厄介なのは「高価で珍しいもの」を貰ってしまったときです。
税務上は時価で会計処理を計上しなければならないため、時価を把握しなければなりませんが、お祝いでもらった高価な品物の時価など、貰った側が分かるわけがありません。
あげる側は良かれと思って高価な物をあげたとしても、受け取った側は会計処理が面倒なことになり、もしかすると逆に受け取る側の迷惑になっているかもしれません。
お祝いというものはそもそも「相手に経済的な得をさせること」が目的なのではなく、「祝うこと、応援すること」が目的なのだから、常識的な範囲内で常識的なお祝い品を選びましょう。
業務効率化のために
クラウド会計
マネーフォワードクラウドのような会計ソフトを導入すると便利です。
キャッシュレス決済端末
『AirPAY』や『Square』などキャッシュレス決済端末を導入してクラウド会計に連携すると業務効率化が図れます。
参考元情報
(平14.1.23裁決、裁決事例集No.63 153頁) | 公表裁決事例等の紹介 | 国税不服審判所 (kfs.go.jp)
法第26条《不動産所得》関係|国税庁 (nta.go.jp)
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