事業開始しまず何から手を付けて良いか分からない新設法人の経営者へ。|澁谷税理士事務所

法人を新設すると、営業活動やサービス設計など「ビジネス上の攻撃力」を上げるための活動をしてゆくのはもちろんですが、法務や税務、労務など「ビジネス上の防御力」を上げる活動も必須になります。

何から手を付けて良いか分からないという経営者向けに概要を解説しています。

目次

誰に依頼すべきか

項目依頼先
会社設立司法書士、税理士、行政書士
給与計算社会保険労務士、税理士
日々の経理税理士
税務申告税理士
登記申請司法書士
社会保険社会保険労務士
就業規則社会保険労務士
許認可行政書士
助成金社会保険労務士

これらは一例です。また、調べる手間を惜しまなければ自社でやろうと思えばできる項目もあります。

弁護士や社会保険労務士、税理士などの専門職には「業際」というものがあります。「Aという分野に関する業務をやっていいのは『●●士』だけですよ」と法律で定められており、それぞれ、法律で定められている業務以外の仕事を引き受けることはできません。

分野ごとにそれぞれの分野の専門家に依頼する必要があります。

許認可

以下のような業種は事業を行うにあたり許認可が必要になるため、自分がやろうとしている業種に何か許認可が必要になるのかどうかを調べる必要があります。

これは税務ではないので、行政書士等の専門家に要相談です。

  • 飲食業
  • 古物商
  • 理容業、美容業
  • 運送業
  • 建設業
  • 宅地建物取引業
  • 酒類販売業

設立月と決算月が近い場合に注意

12月決算にする法人で、11月に設立した場合など、決算月まで時間が少ない場合、諸々の事故につながる可能性が高いです。

税務上期限が決められている届出があり、「それらを提出した方が良いかどうか」の検討にも時間を要する場合があるので、ただでさえ設立当初でやることがたくさんありバタバタしている時期に、決算月を重ねるのはおすすめしません

設立前から既に会計士や税理士、社会保険労務士などと連携済で、やるべきタスクの洗い出しができているなら別ですが、「設立したからこれから専門家を探そう」という方は要注意です。

青色申告の承認申請

様々な届出書・申請書の中で重要度が高い申請書として青色申告承認申請書があります。

この申請書を提出し、承認されれば、税務上の特典を享受することができます。

以下の提出期限までに税務署へ提出する必要があります。

以下の①と②のいずれか早い日の前日
①設立日以後3月を経過した日
②設立日の属する事業年度終了の日

役員報酬

議事録作成

一般的には、設立日から3ケ月以内に臨時株主総会を開いて、そこで役員報酬の金額を決定します。

このときの議事録は必ず必要になるので残しておきます。

事前確定届出給与の届出書

設立日以後2か月以内に、事前確定届出給与に係る届出書を提出します。

会計ソフトや給与計算ソフトの選定

経理と給与計算は、税務申告と異なり、毎月生じるタスクです。

そのため、手動でExcelで管理しだすと工数が大変なことになるので、専用のソフトを導入することが望ましいでしょう。

消費税は課税事業者になるか免税事業者でいるか

インボイス発行事業者(課税事業者)となる場合

なるつもりであればやることはシンプルです。以下に詳細を解説しています。

免税事業者になれる場合

期首資本金額が1,000万円未満である法人を新設した場合、基本的には2期目までは免税事業者となれます。

1-4-6 法第9条第1項本文《小規模事業者に係る納税義務の免除》の規定の適用があるかどうかは、事業者の基準期間における課税売上高が1,000万円以下であるかどうかによって判定するのであるから、例えば、新たに開業した個人事業者又は新たに設立された法人のように、当該課税期間について基準期間における課税売上高がない場合又は基準期間がない場合には、納税義務が免除される。
 ただし、新たに開業した個人事業者又は新たに設立された法人が次のいずれかの規定の適用を受ける場合には、当該課税期間における納税義務は免除されないことに留意する。(平9課消2-5、平13課消1-5、平15課消1-37、平22課消1-9、平23課消1-35、平25課消1-34、平28課消1-57、令2課消2-9により改正)
 なお、適格請求書発行事業者における法第9条第1項本文の適用関係については、1-4-1の2による。

(1) 個人事業者

(一部省略)

(2) 法人

イ 法第9条第4項の規定の適用を受ける法人

ロ 法第9条の2第1項の規定の適用を受ける法人

ハ 法第11条第3項又は第4項《合併があった場合の納税義務の免除の特例》の規定の適用を受ける法人

ニ 法第12条第1項又は第2項《分割等があった場合の納税義務の免除の特例》の規定の適用を受ける法人

ホ 法第12条の2第1項《新設法人の納税義務の免除の特例》の規定の適用を受ける法人

へ 法第12条の3第1項《特定新規設立法人の納税義務の免除の特例》の規定の適用を受ける法人

ト 法第12条の4第1項又は第2項の規定の適用を受ける法人

(注) 個人事業者のいわゆる法人成りにより新たに設立された法人であっても、当該個人事業者の基準期間における課税売上高又は特定期間における課税売上高は、当該法人の基準期間における課税売上高又は特定期間における課税売上高とはならないのであるから留意する。

消費税基本通達 より抜粋

ただ、一定の要件に該当すると、課税事業者を強制されます。このあたりは非常に難しいので顧問税理士に相談が必須です。

消費税の簡易課税制度を選択するかどうか

設立1期目から簡易課税制度を適用したい場合、1期目の課税期間の末日までに届出書を提出する必要があります。

提出した場合、2年間は簡易課税制度が強制されます。

設備投資を行う場合

法人税法上の優遇措置

対象者

以下の全てに当てはまっているような方は、優遇措置を受けることができる可能性があります。

  • 青色申告法人である
  • 中小企業者である
  • 新品の機械装置を取得または制作した
  • 国内にある製造業や建設業など一定の業種の事業の用に供した

参考元情報

消費税法上の注意点

そもそも免税事業者になるつもりはない、という方は無関係ですが、一定の額の資産を購入すると、課税事業者を強制される期間が生じる可能性があります。

どんな設備投資をしたかは税理士側も依頼者に教えてもらわなければ分かりませんので、設備投資を検討するならそのことをご自身の顧問税理士へ共有することが大切です。

源泉徴収に注意する

現物給与に注意

従業員に毎月支払う給料から源泉徴収するのは当然ですが、従業員に対して何らかの利益(無形のものも含みます)を与えた場合、それは「現物給与」という形で課税される可能性があります

源泉徴収漏れしがちな項目ですので要注意です。

有形だろうが無形だろうが、何らかの「利益」や「便益」を従業員に与えたなら、そこには常に「現物給与」に該当する可能性があるとお考え下さい。

従業員に対しての支払だけが対象ではない

源泉徴収と聞くと、「給与から徴収するもの」という認識の方が多いと思いますが、以下のような個人の取引相手に何か支払ったときは常に源泉徴収する必要性を必ず確認すべきです。

  • 弁護士、税理士、社会保険労務士、司法書士、建築士、不動産鑑定士
  • デザイナー
  • ライター
  • イラストレーター
  • 写真家
  • 作曲家
  • 講演の依頼先の講師
  • 脚本家
  • 翻訳家
  • 通訳
  • スポーツ選手

源泉徴収の要否は、「源泉徴収される側」の責任ではなく、「源泉徴収する側」の責任で行われるものなので、自社で「この請求に対して源泉徴収する必要があるのかどうか」を検討しなければなりません。

請求書に源泉徴収税額を記載した状態で請求書を送付してくれる取引先もあると思いますが、記載されている源泉税額が合っているのかどうかの確認も「源泉徴収する側」の責任において行うべきものだという点に注意が必要です。

「源泉徴収される側」に押し付けることはNG

所得税法上、以下のようになっており、源泉徴収義務者(会社)が源泉徴収ミスした場合は、源泉徴収義務者が最後まで責任を負うことになります。「もともと自分が負担する税金ではないし、源泉徴収される側(お金を受け取る側)にまかせればいい」という理屈は通用しません。ペナルティも源泉徴収義務者(会社)に課せられます

(源泉徴収義務者)

第六条 第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等の支払をする者その他第四編第一章から第六章まで(源泉徴収)に規定する支払をする者は、この法律により、その支払に係る金額につき源泉徴収をする義務がある

所得税法より抜粋

(源泉徴収に係る所得税の徴収)

第二百二十一条 第一章から前章まで(源泉徴収)の規定により所得税を徴収して納付すべき者がその所得税を納付しなかつたときは、税務署長は、その所得税をその者から徴収する

所得税法より抜粋

従業員10人未満なら

源泉所得税したお金の納付は原則毎月生じます

マンパワーが少ない会社にとってはこの事務負担は大きいですが、もし自分の会社が従業員10人未満なら、特例があり、年に2回に納付回数を減らすことができます。

印紙税に注意

基本的に50,000円以上なら必要

会社を設立したばかりだと自分が「印紙を貼る側」になるイメージが沸かず納付漏れにつながる可能性が高いです。

印紙を使う頻度が多い業種の場合、毎回毎回、顧問税理士に確認するわけにもいかず、また、税理士もあくまで外部専門家なので依頼者本人から連絡がなければ「そもそも印紙が必要な取引が生じたのかどうか」の把握すらできない場合もあります。印紙は日々の取引に密接に関わっているため、自分自身で「どういう場合に印紙が必要か」を把握しておかなければなりません。

一番メジャーなのは、50,000円以上の領収書に貼る印紙です。

契約書にも必要

自分の取引先と契約書を取り交わすときにも印紙の必要性の検討が必要です。

ただ、「印紙が必要かどうか」「必要ならいくら貼ればいいのか」の判断も答えが明確に白黒つけられるわけではなく結構大変ですし、いちいち紙で製本して郵送して…というやり方も時代に逆行していますので、電子契約を導入するのも1つの方法です。電子契約の場合、印紙は不要となります。

消費税の表記に注意

印紙税の金額決定の基礎になる金額は、税込と税抜とで変わってきます。

以下をご参照下さい。

No.7124 消費税等の額が区分記載された契約書等の記載金額|国税庁 (nta.go.jp)

融資を申し込みたいとき

メジャーなのは「日本政策金融公庫」の融資制度です。

オンラインでも申込できます。

電子取引に係る請求書の保存義務

2024年1月1日から義務化された「電子取引データ」の保存です。

以下の記事で詳細を解説しています。

まずは「事務処理規定」を作成しましょう。すぐに作れます。

「法人会」の説明会

法人会という団体が定期的に新設法人向けの説明会を行っています。

怪しげな団体ではなく、税務署が主催しており税理士や税務署の担当者が講師として説明してくれる無料の会なので、是非活用しましょう。

その他参考コラム

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