電子帳簿保存法には大きく3つの分野があります。「電子帳簿保存」(任意)「スキャナ保存」(任意)「電子取引データ保存」(義務)です。
このうち、「電子取引データ保存」だけ2024年1月から義務化されています。本コラムでは「電子取引データ保存」に特化して解説しています。
全体像
電子取引の具体例
「取引情報」(「取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類」に通常記載される事項)の授受を、インターネットなどの電磁的方法により行う取引のことです(国税庁『電子帳簿保存法一問一答 電子取引関係 令和5年6月』問2)。
紙ではなく電子で請求書などを受け取るor渡す行為をしたら、それを電子のままデータで保存しなければならない(義務)、というものです。
具体例です。
- EDI取引
- インターネットによる取引
- メールで取引情報(請求書PDFなど)を授受する取引
- WEBサイト上で取引情報を授受する取引(amazonなど)
「電子取引データ」の保存要件
3要件+α で合計4つ
以下の要件があります(国税庁『電子帳簿保存法一問一答 電子取引関係 令和5年6月』問15)。
要件 | 内容 |
真実性の要件 (改ざん防止措置) | 以下のいずれかの措置を行う。 ①タイムスタンプが付された後の授受 ②速やかに(※1 又はその「業務の処理に係る通常の期間」を経過した後、速やかに)タイムスタンプを付す ③「データの訂正削除を行った場合にその記録が残るシステム」又は「訂正削除ができないシステム」を利用して授受及び保存を行う ④「訂正削除に防止に関する事務処理規定」を策定&運用&備付 |
見読可能装置の備付け | ・PCやプリンター、モニターなどを備付けて、データを速やかに確認できるようにする ・PCなどの操作マニュアル備付け |
検索機能の確保 | 以下の全てが要件です。 ・取引の「日付&金額&取引先」で検索ができる ・「日付or金額」について範囲を指定した検索ができる ・「日付・金額・取引先」のうち2つ以上の項目を自由に組み合わせて検索できる |
電子計算機処理システムの概要を記載した書類の備付け ※2 | システム概要書を作成し備え付ける。 (オンラインマニュアルやオンラインヘルプ機能という形でもOK(国税庁『電子帳簿保存法一問一答 電子取引関係 令和5年6月』問24)) |
※1 「取引情報の授受」~「その記録事項にタイムスタンプを付す」までの各事務の処理に関する規定を社内で定めている場合のみ。
※2 自社開発プログラムを使用する場合のみ
マネーフォワードクラウドの場合
以下のページに、「マネーフォワードクラウドが、これらの要件をどのように充足しているかを確認する方法」が載っています。さすがマネーフォワードさん。
真実性の要件
方法は4種類ある
以下のいずれかの方法を採用してください(国税庁『電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】令和5年6月』の問27)。
①「タイムスタンプ付与済データ」を受領する
③「データの訂正削除をおこなった場合にその記録が残るシステム」(又は「そもそも訂正削除自体ができないシステム」)を介してデータの授受及び保存をおこなう
どの方法にするかは事業者が自由に選択でき、また、複数の改ざん防止措置を使い分けることも認められています(国税庁『電子帳簿保存法一問一答 電子取引関係 令和5年6月』問28)。
状況ごとに想定される方法
電子取引の種別 | 想定される方法 |
請求書等のPDFなどをメールで受領 | ①②④ |
HP(Amazonなど)から請求書等のPDFなどをダウンロード 又はHP上に表示される請求書等をスクショ | ①②④ |
電子請求書等の授受ができるクラウドサービスを利用 | ③ |
クレカ利用明細データや交通系IC支払データ等を活用したクラウドサービスを利用 | ③④ |
②の「速やかにタイムスタンプを付す」方法
「速やか」とは
「おおむね7営業日以内」が「速やか」です。
しかし、毎日出勤しない従業員がタイムスタンプ処理をおこなう場合など、何か特別な事情がある場合は、「その事由が解消した後直ちに付与」することで「速やかにタイムスタンプを付与」したことになるそうです。
ちなみに「機器のメンテナンスを怠ったせいで機器を起動できずタイムスタンプが押せなかった」のように事業者に責任があるような場合はこの取り扱いは認められません。
(国税庁『電子帳簿保存法一問一答 電子取引関係 令和5年6月』問55)
「おおむね7営業日以内」より延長したいとき
「取引情報の授受」~「その記録事項にタイムスタンプを付す」までの各事務の処理に関する規定を社内で定めている場合、タイムスタンプを付すまでの期間を延長することができます((国税庁『電子帳簿保存法一問一答 電子取引関係 令和5年6月』問15)。
タイムスタンプを付すまでの期間の延長は、「取引情報の授受」から「(最大で)2か月+おおむね7日営業日以内」にできます((国税庁『電子帳簿保存法一問一答 電子取引関係 令和5年6月』問56)。
この規定のサンプルは国税庁HPには載っていませんので自分で作れということかと。
マネーフォワードクラウドでは…
「マネーフォワードクラウド会計・確定申告」で「証憑添付機能」を使ったり、「マネーフォワードクラウドbox」に証憑(電子取引データ)をアップロードしたりすると、自動でタイムスタンプが押されます。
前述の②の方法で「真実性の要件」を充足しているということです。
クラウドBoxでは、「アップロード」機能を利用することで、ファイルの保存時にタイムスタンプが付与される仕組みです。
これにより、「真実性の確保」について、以下の②に対応しています。① タイムスタンプが付されたあと、取引情報の授受を行う
マネーフォワードクラウドHP より抜粋
②取引情報の授受後、速やかに(またはその業務の処理にかかる通常の期間を経過したあと、速やかに)タイムスタンプを付すとともに、保存を行う者または監督者に関する情報を確認できるようにしておく
③ 記録事項の訂正・削除を行った場合に、これらの事実および内容を確認できるシステムまたは記録事項の訂正・削除を行うことができないシステムで取引情報の授受および保存を行う
④ 正当な理由がない訂正・削除の防止に関する事務処理規程を定め、その規程に沿った運用を行う
以下の機能を利用してファイルを保存すると、タイムスタンプが付与されます。
- マネーフォワード クラウドBoxの「アップロード」機能
- 「マネーフォワード クラウド会計・確定申告」の「証憑添付」機能
- 「マネーフォワード クラウド会計Plus」の「証憑添付」機能
これにより、「真実性の確保」の要件である「取引情報の授受後、速やかに(またはその業務の処理にかかる通常の期間を経過したあと、速やかに)タイムスタンプを付すとともに、保存を行う者または監督者に関する情報を確認できるようにしておく」に対応しています。
マネーフォワードクラウドHP より抜粋
そのため、「電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程」は不要です。
④訂正削除防止に関する事務処理規定
①~③の方法に加え、セイフティネット代わりに④の方法(事務処理規定の策定・運用・備付)もやっておくことをおすすめします。
④は4つのうち一番手軽に導入できます。
改ざん防止措置の要件については、「タイムスタンプが付与されているのかどうか」とか「記録が残るシステムなのかどうか」「タイムスタンプの付与はどうやるのか」「送信者側でタイムスタンプが付与されているのかどこから確認するのか」など、素人が日々の業務の中で即座に判断できるわけがないです。
無限に時間をかけることができたり、資金力のある大企業であったり、システムに精通している従業員がいるなどの状況であればともかく、通常は難しいでしょう。
マネーフォワードやfreee、弥生会計など大手の会計ソフトメーカーであれば、「電子帳簿保存法に対応」と謳っているので問題ないと思われますが、これらのソフトをメインで使うとしても、仮に何らかの事情でこれらの会計ソフトシステムへのアップロードが漏れている電子取引データがあった場合のために、4の方法も併せておくと良いでしょう。
以下の国税庁HP「電子取引に関するもの」のところにサンプルが掲載されています。
参考資料(各種規程等のサンプル)|国税庁 (nta.go.jp)
見読可能装置の備付け
PCやディスプレイなどの台数や性能に制約はある?
性能や設置台数は要件とされていません。
さらに、マンパワーが常時不足しているような小規模事業者の場合で、ディスプレイ台数が少なく、税務調査があった際、税務調査のためにそのディスプレイを優先的に割いてあげることが難しいようなケースでは、調査官が確認したいデータのコピーを作成して渡せるようにしておくという対応でもOKです。
(国税庁『電子帳簿保存法一問一答 電子取引関係 令和5年6月』問17)
スマホしか使わない事業者は?
PCもプリンタも持っていなく、スマホだけでビジネスが完結するような事業者の場合は、他の要件をキチンと満たしていれば、PCやディスプレイなどの備付け要件は満たしていることとされます。
また、電子取引データの保存時に満たすべき要件には電子計算機、プログラム、ディスプ
国税庁『電子帳簿保存法一問一答 電子取引関係 令和5年6月』問18 より
レイ及びプリンタの備付けも含まれているところ、保存に用いているスマートフォンがあれ
ば、電子計算機、プログラム、ディスプレイの備付けに係る要件は充足していることとなり
ます。また、プリンタについても、基本的には納税地等に備え付けておく必要がありますが、
税務調査等があった時点においてプリンタを常設していない場合であっても、近隣の有料プ
リンタ等により税務職員の求めに応じて速やかに出力するなどの対応ができれば、プリンタ
を常設していないことのみをもって要件違反として取り扱うことはありません。
検索機能の確保
簡易な方法
国税庁HPのパンフレットにて「検索要件を満たすための簡易な方法」として以下のやり方が紹介されています。
以下のいずれかのやり方で対応してもOKとのこと。
(国税庁『電子帳簿保存法一問一答 電子取引関係 令和5年6月』問44)
Excelなどで索引簿を作成
これは、原始資料とは別でわざわざExcelを作成しなければならず事務負担が大きいので、↓の方法の方が良いかもしれません。
ファイル名で管理
以下のようにファイル名に必要な検索要素(日付、金額、取引先)を入れて、フォルダにまとめて保存しておく方法です。
この方法の場合、税務署職員からのダウンロードの求めに応じることができるようにしておく必要があります。
(国税庁『電子帳簿保存法一問一答 電子取引関係 令和5年6月』問44)
ダウンロードの求め
税務署職員からデータの提示や提出を求められたときの提出するデータ形式や並び順については縛りはありませんが、「通常出力できるであろうファイル形式等」で提出される必要があります。
いまいち何を言っているのか日本語が不明ですが、通常amazonなどのネットショッピングであれば請求書はPDFでしかダウンロードできませんし、取引先からメールで請求書を受取るときも普通はPDFで送付しExcelなど「受け取った側で編集できる形式」で送付することはしないと思いますので、PDFで税務署職員に提出できれば問題ないと思われます。
(国税庁『電子帳簿保存法一問一答 電子取引関係 令和5年6月』問53)
「取引金額」は税込?税抜?
「取引金額」は、自分が選択している経理方式(税抜経理or税込経理)に合わせるか、電子取引データに記載されている取引金額を使っても構わず、税抜・税込を統一せずにいても問題ないです。
(国税庁『電子帳簿保存法一問一答 電子取引関係 令和5年6月』問51)
電子契約を導入
電子契約を導入すれば紙の契約書を保管せずに済みますのでおすすめです。
参考元情報
00023006-044_03-5.pdf (nta.go.jp)
0023006-085_01.pdf (nta.go.jp)
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