本コラムは以下のような方を対象としています。
- 必要経費算入できるもの=収入獲得に繋がっているもの と理解している方
よく見かける説明
「売上獲得につながっているかどうか」「収入を得るために必要なものかどうか」。こういう解説をよく見かけます。
間違いではないのですが、そもそも必要経費として算入できるものは大きく2種類あり、それらの区別がされないまま解説されている情報をよく見かけるため、本コラムではその点について解説しています。
条文上
2つ列挙されている
所得税法の条文上、必要経費として認められるものは以下の2つが挙げられています。
(必要経費)
第三十七条 その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(事業所得の金額及び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びに雑所得の金額のうち第三十五条第三項(公的年金等の定義)に規定する公的年金等に係るものを除く。)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。
所得税法 より抜粋
事業所得、不動産所得および雑所得の金額を計算する上で、必要経費に算入できる金額は、次の金額です。
(1)総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額
(2)その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額
国税庁『No.2210 やさしい必要経費の知識』より抜粋
これらのうち、「売上獲得につながっているかどうか」うんぬんは、「総収入金額を得るため」という文言が書かれている1点目の方の話であると考えられます。
2点目の方については「総収入金額に係る」「総収入金額を得るため」「直接要した」という文言はありません。
この2つが区別されていない説明をよく見かけます。
なぜ2つに分かれているのか
実務書籍などを見ると「収入と対応するもの」「期間対応のもの」とで分かれて解説されています。まとめると以下のようになると考えられます。
条文上 | 種別 | 具体例 |
「収入金額に係る」 「収入金額を得るため直接に要した」 | 収入と対応する必要経費 | 製造業における売上原価 小売業における仕入 飲食業における食材仕入 |
「その年に生じた」 「所得を生ずべき業務について生じた」 「債務の確定しないものを除く」 | 期間対応の必要経費 | 保険料 水光熱費 接待交際費 広告宣伝費 |
1点目と2点目とでは、明らかに要件が異なっています。
「その費用がどちらに分類されるものなのか」の議論を置き去りにして、いきなり「収入を得るためにかかった費用なのかどうか」「直接要したのかどうか」うんぬんの話に入るのはおかしいです。
裁判例
昔から何度か争われているテーマですが、有名な判例として以下の内容が挙げられます。
これに対し,被控訴人は,一般対応の必要経費の該当性は,当該事業の業務と直接関係を持ち,かつ,専ら業務の遂行上必要といえるかによって判断すべきであると主張する。しかし,所得税法施行令96条1号が,家事関連費のうち必要経費に算入することができるものについて,経費の主たる部分が「事業所得を…生ずべき業務の遂行上必要」であることを要すると規定している上,ある支出が業務の遂行上必要なものであれば,その業務と関連するものでもあるというべきである。それにもかかわらず,これに加えて,事業の業務と直接関係を持つことを求めると解釈する根拠は見当たらず,「直接」という文言の意味も必ずしも明らかではないことからすれば,被控訴人の上記主張は採用することができない。」
事件番号:平成23(行コ)298 事件名:更正処分取消等請求控訴事件(原審 東京地方裁判所平成21年(行ウ)第454号)より抜粋
「業務ついて生じた費用」
たくさんある
必要経費に問題なく算入できるものの中には、「収入を得ることに直接つながっていない」ものもたくさんあります。
もし全ての費用について、「収入を得ること直接つながっているかどうか」が基準になっているのであれば、これらは全て必要経費に算入できないことになってしまいます。
これらがなぜ必要経費に算入できているのかと言えば、2点目の「業務について生じた費用」だからであると考えます。
以下で具体例をみてゆきます。
事業に関する保険料
これは「収入を得るために直接要している」ものではなく、どちらかというと「何かあった時の防御のための支出」です。
ですが、個人のドライバーさんが加入するような保険にかかる保険料はもちろん必要経費に算入できるでしょうし、実務上も皆さん問題なく算入しているでしょう。
事業専用事務所で契約しているインターネット代
これも、収入獲得とは無関係に生じるただのランニングコストです。
しかし、事業専用事務所なのであれば、もちろん必要経費に算入できるでしょうし、実務上も皆さんしていると思います。
結果的に効果が無かった広告宣伝費
仮に、新聞折り込みチラシのような事業に関する広告宣伝費を支出し、12/30に債務確定したとします。
12/31にいきなり広告の効果が出ることはおそらくありません。しかし、バリバリ事業に関するものなので、繰延資産に該当するようなものでなければ、必要経費に算入すると思います。
そして翌年、広告宣伝効果が0だったとします。収入を得ることができませんでした。こういうとき、さかのぼって修正申告なんてしないですよね。「効果があるかどうか」という「誰にも予測ができるわけがないこと」を基準にして、必要経費に算入できるかどうかを決定する、というのは相当無茶苦茶です。
「結果を確認してからでないと必要経費に算入することはできない」ことが読み取れる条文・通達・ガイドライン等も見たことがありませんし、仮にあったとしても「効果があったかどうか」は、何日間、何週間、何か月間、何年間待ってから確認すればよいのでしょうか。非現実的です。
そのような条文・通達・ガイドライン等、私が知る限りはありません。(もしあったら問い合わせフォームから教えて下さい!)
結論として、この広告宣伝費は事業に関するものなので、結果的に収入獲得につながらなかったとしても必要経費には算入できるでしょう。なぜでしょうか。2点目の「業務について生じた費用」に該当しているからだと考えます。
ちなみに、別の話ですが、消費税法では仕入税額控除に関して、「結果は問わない」ことが読み取れる通達があります。
(滅失等した資産に係る仕入税額控除)
11-2-9 課税仕入れ等に係る資産が事故等により滅失し、若しくは亡失した場合又は盗難にあった場合などのように、結果的に資産の譲渡等を行うことができなくなった場合であっても、当該課税仕入れ等について法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》の規定が適用されるのであるから留意する。
消費税基本通達より抜粋
まとめ
色々挙げましたが、要点としてはシンプルに「条文に書かれていないロジックを勝手に持ち出すな」ってことです。
税法は強行規定で予測可能性(この条文にこう書いてあるから、こういう風に行動するとこういう結果になるな、と読み手が誰でも予想できる状態)が求められます。「条文に書かれていないこと」は「書かれていない」のだからそのような書かれていないロジックを持ち出したらもはや誰も予想できません。
なんとなくどこかで聞いた「必要経費に算入するためには収入を得るために要したものでなければならない」という情報の記憶をたよりに、条文などに基づかない判断をするのは危険ですので注意しましょう。
参考元情報
No.2210 やさしい必要経費の知識|国税庁 (nta.go.jp)
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