ネイリストとして独立した1年目は、どこまでを経費にしてよいか判断しにくい支出が次々と出てきます。
同じネイリストでも、サロンと業務委託契約を結んで働く場合と、自分の店舗や自宅サロンを持つ場合とでは、確定申告で経費にできる支出の範囲が大きく変わります。
この記事では、働き方ごとの経費の範囲の違いと、衣装代や自分の美容代など判断が分かれやすい支出の考え方を整理します。
ネイリストの経費になる支出の2つの条件
経費にできるのは、売上に直接対応する費用と、その年の事業のために生じた販売費・一般管理費などの費用です。売上との結びつきを説明できない支出は、ネイル関連の買い物であっても経費になりません。
もう一つの条件が、私生活の費用と切り分けられているかどうかです。生活費(家事上の費用)は経費になりません。
自宅の家賃やスマートフォン代、洋服代のように、仕事と私生活の両方にかかわる支出は「家事関連費」と呼ばれ、帳簿や記録にもとづいて業務に直接必要だった部分を明確に区分できる場合に、その区分した金額だけが経費になります。
つまり、独立1年目の経費の範囲は「何を買ったか」ではなく「どんな働き方で、どこまで自己負担しているか」で決まります。
業務委託で働くネイリストの経費の範囲
サロンが材料や設備を用意している場合
経費にできる支出は限られます。ジェルやファイル、ネイルマシン、施術スペースの家賃や水道光熱費をサロン側が負担しているなら、その費用はサロンの経費であり、ネイリスト本人の経費にはなりません。
この働き方で経費になるのは、自分が実費を負担したものだけです。例えば、自分で買い足した施術道具やアート用の材料、サロンへの移動にかかった交通費、集客用の名刺やSNS広告の費用、施術者向けの賠償責任保険料、会計ソフトの利用料などが挙げられます。
報酬の総額に対して経費の額が小さくなりやすいため、売上から差し引ける金額を取りこぼさないよう、少額の領収書ほど残しておく必要があります。
面貸し・シェアサロンで働く場合
自己負担が増える分、経費にできる支出も広がります。サロンに支払う席料(面貸し料)やレンタル料は経費になり、自分で購入したジェル・ネイルチップ・消耗品も経費になります。
予約管理システムの月額料金、ポータルサイトの掲載料、顧客への郵送費なども、集客や施術のために支出していれば経費として扱えます。
報酬が給与として扱われる場合
契約書の名称が「業務委託」でも、報酬が給与所得として扱われることがあります。事業所得は自己の計算と危険において独立して行う事業から生じる所得であり、雇用契約またはこれに準ずる契約にもとづく役務提供の対価は給与所得になります。
これは昭和の時代から存在するオーソドックスなテーマであり、事例も複数あります。昔はひとり親方や夜職、美容師など一部の業界にしか出てこなかった話ですが、最近はフリーランスとして働き方が増えてきているためか、これらの業界以外でも問題になることがあります。ネイリストのように、雇用されずに働くことが一般的な業界は特に注意です。
給与所得に該当すると、必要経費を差し引く形での申告はできません。勤務時間や施術内容の指示、道具の負担者などの実態から判断されるため、契約形態と実際の働き方がずれている場合は、申告の前に確認が必要です。
自分のサロンを持つネイリストの経費の範囲
店舗にかかる支出
テナントを借りて開業している場合、経費にできる支出は業務委託よりも大きく広がります。家賃、共益費、水道光熱費、火災保険料、内装設備の減価償却費、リース料などが該当します。
契約時に支払った礼金や更新料のうち一定額以上のものは、支払った年に全額を経費にできず、数年に分けて費用にしていく扱いになります。
材料・集客にかかる支出
ジェル、パーツ、除光液、消毒用品といった施術材料は、購入した分ではなく、その年の事業のために使った分を経費として計算します。年末に在庫が多く残っている場合は、棚卸しの対象になります。
集客面では、ポータルサイトの掲載料、チラシやショップカードの制作費、撮影機材、Web広告費などが経費になります。顧客への手土産やドリンク代も、施術に付随するものであれば経費として扱えます。
自宅サロンの家事按分
自宅の一部をサロンにしている場合、家賃や水道光熱費のうち、サロンとして使っている部分だけが経費になります。全額を経費にすることはできません。
床面積の割合や使用時間など、後から他人に説明できる基準で区分し、その計算根拠を残しておく必要があります。区分が説明できないと、経費として認められない部分が出てきます。
衣装代・美容代など判断が分かれる支出
衣装代・私服の購入費
施術中に着る服の購入費を経費にするのは、無理があります。私服としても着られる服は私生活の費用と切り離せず、生活費に該当するためです。
経費として扱えるのは、店名やロゴが入ったユニフォームなど、事業以外に使いようがないものに限られます。「仕事用に買った」という本人の意図だけでは、経費にする根拠になりません。
基本的に、衣食住に関する支出は、適当な判断は禁物です。
自分の爪や髪のメンテナンス費用
自分のネイルや美容院代も、原則として経費になりません。見本として顧客に見せているとしても、私生活と切り離せない支出であり、業務に直接必要な部分を明確に区分することが難しいためです。
一方で、撮影用のサンプルチップ制作や、作品撮りのために外部へ支払った費用は、事業のための支出として説明できる場合があります。
自分のジム代なども同様です。
講習会・資格取得の費用
技術講習やセミナーの参加費は、今の事業に直接必要な内容であれば研修費として経費になります。
これに対し、新たに資格そのものを取得するための費用は、本人に帰属する資格の取得費として経費と認められない場合があります。金額が大きくなりやすい支出のため、申告前に判断を固めておくほうが安全です。
よくあるミス
顧問税理士がついていない個人事業主の方に多いミス(誤解)ですが、以下のような進め方は辞めましょう。
- 他の同業者がこれも経費に入れていたから自分もそうした。
- みんなやっている。
- YouTubeでこれも経費で良いと言っていた。
これらはすべて再現性の無い他人の体験談に過ぎないためです。
10万円以上の備品と開業前の支出の扱い
ネイルマシンなど10万円以上の備品
取得価額が10万円未満のものは購入した年に全額を経費にできますが、10万円以上のものは原則として耐用年数に応じて数年に分けて経費にしていきます。
青色申告をしている場合は、一定額未満の資産を取得した年に全額経費にできる特例があります。この特例の対象金額は令和8年度の改正で40万円未満に引き上げられ、適用期限は令和11年3月31日までとされています。改正前に取得した資産は30万円未満が基準となるため、購入時期によって扱いが変わります。
開業前に支払った支出
開業日より前に支払った支出も、切り捨てになるわけではありません。開業のために特別に支出した費用は「開業費」として繰延資産に計上でき、任意償却が認められています。
任意償却では、未償却の残高をいつでも償却費として必要経費に算入できます。利益が出た年に合わせて経費にできるため、独立1年目は特に影響の大きい論点です。
経費の線引きに迷ったときの確認先
独立1年目は、判断の材料になる過去の申告がなく、同業者の話も働き方が違えば当てはまりません。経費にできると思っていた支出が認められなかったり、逆に計上できる支出を落としたまま申告してしまうことが起こりやすい時期です。
当事務所では、経費の範囲や按分の考え方だけを確認したい方向けの「スポット税務相談」と、1年目の確定申告そのものをお任せいただける「スポット所得税申告」をご用意しています。手元の領収書やサロンとの契約内容をもとに、個別の状況に沿って整理しますので、申告期限が近づく前にご相談ください。
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