電子帳簿保存法は、「帳簿保存」「電子取引データ保存」「スキャナ保存」の3つから成ります。
このうち、「電子取引データ保存」だけが義務であり、残りの2つは任意なので影が薄いですが、本コラムでは「スキャナ保存」に特化して解説します。
- スキャナ保存の要件を満たした証憑の原本(紙)は廃棄できるので省スペース化できる
- 対象となる書類は契約書や納品書、請求書、領収書など
- 任意のタイミングでスキャナ保存をスタートできる(手続きや届出不要)
- 届出をすれば過去分の証憑(紙)をデータ化することもOK
スキャナ保存の要件
各種要件
要件 | 内容 |
スキャナ保存の期間の制限 | 次のいずれかの期間内にスキャン&保存する。 ①書類を作成or受領してからおおむね7営業日以内 ②各企業で採用している業務サイクル期間(最長2か月)を経過した後、おおむね7営業日以内 ※1 |
画質要件 | 以下の両方を満たして読み取る。 ・解像度200dpi相当以上 ・赤、緑、青の階調がそれぞれ256階調以上(24ビットカラー) |
タイムスタンプの付与 | 期間内にタイムスタンプを付与(一の入力単位ごと) |
ヴァージョン管理 | スキャンしたデータについて、以下のいずれかを使用する。 ①訂正削除の事実やその内容を確認できるシステム ②訂正削除を行うことができないシステム |
帳簿との相互関連性確保 | 「スキャンしたデータ」⇔「そのデータに関連する帳簿の記録事項」の相互関連を確認できる |
モニターなど見読可能装置等の備付け | 以下の全てを備付ける。 ・14インチ(映像面の最大径が35cm)以上のカラーディスプレイ ・カラープリンタ ・操作説明書 |
速やかに出力 | スキャンしたデータは以下の状態で速やかに出力できる。 ・整然とした形式 ・書類と同程度に明瞭 ・拡大or縮小して出力できる ・4ポイントの大きさの文字を認識できる |
システム概要書等の備付け | 以下を備付ける。 ・スキャナ保存するシステムの概要書 ・システム仕様書 ・操作説明書 ・スキャナ保存の手順や担当部署などを記載した書類 |
検索機能の確保 | 次の要件で検索できる。 ※2 ①日付、取引金額、取引先 ②日付or金額に係る記録事項について範囲を指定して検索 ③2以上の項目を組み合わせて検索 |
※1 各企業において「書類を作成or受領」してから「スキャン保存する」までの各事務の処理規定を定めている場合のみ。
※2 税務職員によるダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合は②③は不要
マネーフォワードクラウドの場合
以下に、「マネーフォワードクラウドではどうやってスキャナ保存要件を満たしているか」の説明があります。
スキャナ保存の期間制限
スキャンするだけではNG
期間内に以下のいずれかの対応が必要です。
・「スキャン」から「スキャンしたデータへのタイムスタンプ付与」までおこなう
・スキャンしたデータを「訂正削除履歴を確認できるシステム」or「訂正削除ができないシステム」に格納
(国税庁『電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】令和5年6月』問20)
おおむね7営業日以内にできない
特別な事情がある場合、その事由が解消した後直ちに対応すれば、「おおむね7営業日以内に対応した」ものとして取り扱われます。
ただし、「機器のメンテナンスを怠ったことで機器が故障して期間内に対応できなかった」など、事業者に責任がある場合はNGです。
(国税庁『電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】令和5年6月』問21)
7営業日では足りない場合
一定の事務処理規定を定めることによって、最長で「2か月+おおむね7営業日」以内と延長することもできます。
(国税庁『電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】令和5年6月』問22)
すぐに廃棄していい?
要件さえ満たしていれば基本的には、スキャン対象物(紙)は廃棄してOKです。
といっても、制度導入当初は色々不安もあると思うので、念のため一定期間は保管しておいた方がよさそうですが(本末転倒ですが…)。
ちなみに期間を過ぎてしまった場合は紙を保存しておかなければなりません。
また、印紙が貼付された書類についても、要件を満たしてスキャン後に廃棄してもOKですが、もし印紙税の過誤納還付申請をするような状況になったとき、書類(紙)が必要になるので、印紙が貼付された書類は保存しておいた方がいいかもしれません。
そもそも契約関係は、電子契約にしてしまうのが一番楽なのですが。
(国税庁『電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】令和5年6月』問3)
消費税の仕入税額控除はできる?
できます。
(国税庁『電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】令和5年6月』問4)
画質要件
スマホやデジカメでもOKです。(国税庁『電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】令和5年6月』問5)
ただ、スマホで画質要件が満たせるのかよくわからない部分があるため、ScanSnapなどのスキャナの方が無難かも。
この画質要件については、税理士もシステムの専門家ではないので、保証するようなことはできません。そのうち、「スキャナ保存の画質要件に対応した撮影アプリ」みたいなものが出てくるかもしれません。
なおマネーフォワードクラウドの場合、アップロードした時点で解像度と階調情報のチェックをしてくれるようです。
マネーフォワード クラウド会計・確定申告では、上記の要件を満たしたファイルを「証憑添付」機能を利用してアップロードすることで、解像度および階調情報のチェックが行えます。
(一部省略)
添付したファイルが要件を満たさない場合、アラートメッセージが表示されます。
マネーフォワードクラウド確定申告サポートサイト『「スキャナ保存」に対応するために必要な設定・操作について』より抜粋
タイムスタンプの付与
これは事業者側で何かするというよりは、「タイムスタンプ付与機能を搭載したソフトを選定する」という方法でこの要件を満たすしましょう。
ヴァージョン管理
一見難しそうですが、この要件は、「ヴァージョン管理要件を満たしているシステム・ソフトを使用する」ということで満たせます。
事業者側で何かするというより、そういうソフトを選定すれば良い、ということです。
帳簿との相互関連性
これも「ヴァージョン管理」同様、要件を満たしたソフトを選定すればOK。
見読可能装置等の備付け
ディスプレイや説明書はともかく問題はカラープリンタです。「及び」と書いてあるため必須です。
14インチ(映像面の最大径が35cm)以上のカラーディスプレイ及びカラープリンタ並びに操作説明書を備え付けること
国税庁HP『【令和6年1⽉以降用】電子帳簿保存法 はじめませんか、書類のスキャナ保存』より
複合機は高価なので小規模事業者には「カラープリンタ」の備付は難しいかもしれません。これがスキャナ保存を難しくしている1つの要因かと思います。
ちなみに「電子取引データ保存」の方では以下のような運用となっています。
また、電子取引データの保存時に満たすべき要件には電子計算機、プログラム、ディスプ
国税庁『電子帳簿保存法一問一答 電子取引関係 令和5年6月』問18 より
レイ及びプリンタの備付けも含まれているところ、保存に用いているスマートフォンがあれ
ば、電子計算機、プログラム、ディスプレイの備付けに係る要件は充足していることとなり
ます。また、プリンタについても、基本的には納税地等に備え付けておく必要がありますが、
税務調査等があった時点においてプリンタを常設していない場合であっても、近隣の有料プ
リンタ等により税務職員の求めに応じて速やかに出力するなどの対応ができれば、プリンタ
を常設していないことのみをもって要件違反として取り扱うことはありません。
「スキャナ保存」についても近隣のコンビニの有料プリンタでもOK、という運用になってほしいところですが、現状公式に国税庁から出ている上記の資料には「及び」と書いてあるのでカラープリンタは必須ということになります。
モニターなど見読可能装置の備付け
性能や設置台数は要件には含まれていません。
小規模事業者でモニターの台数が少ない場合、税務調査時に調査のために優先的にモニターを割いてあげることが難しい場合は、調査官にデータのコピーを渡せるようにしておくことが必要です。
(国税庁『電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】令和5年6月』問11)
速やかに出力
これは要件を満たせるディスプレイなどを事業者側で用意する必要があります。
明らかに古い型のディスプレイ・プリンタでなければ通常は問題ないと思われます。
システム概要書などの備付け
オンラインマニュアルやオンラインヘルプ機能でもOKです。
(国税庁『電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】令和5年6月』問18)
検索機能の確保
手動で管理することもできなくはないと思いますが、手間がかかりますので、これも「スキャナ保存の検索機能要件に対応したシステム・ソフト」を使うことで対応できると思われます。
過年度分もスキャナ保存するとき
スキャナ保存は2024年1月以降の取引にしか許されないものではなく、過去の取引に係る書類についても要件を満たせばスキャナ保存できます。
その場合、過去数年分の書類をデータ化するわけですから相当な時間がかかりますが、この場合、特に「●ケ月以内にスキャナ保存しなければならない」という決まりはないので、何か月かけてスキャナ保存作業を行ってもOKです。
ただし、以下の届出は必要です。
A1-49、C1-73、H4-4国税関係書類の電磁的記録によるスキャナ保存の適用届出(過去分重要書類)|国税庁 (nta.go.jp)
(国税庁『電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】令和5年6月』問53)
まとめ
スキャナ保存については、素人には判断できない内容が含まれています。
税務の話ではない項目もいくつかあるため、それらについては税理士も判断できません。
よって、「『スキャナ保存の要件を満たしている』という謳い方をしているツール・サービス・ソフトを選ぶ」というやり方で要件を満たす、というのが現状安全な方法と思われます。
参考元情報
00023006-044_03-3.pdf (nta.go.jp)
0023006-085_03.pdf (nta.go.jp)
その他参考コラム
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