設立したばかりの法人や個人事業主の源泉所得税会計処理。支払側と受取側の仕訳例

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本コラムでは以下のような方を対象として、源泉所得税の会計処理を、支払側・受取側両者の視点から解説しています。

  • 事業を開始したばかりの個人事業主
  • スタートアップ企業
  • いままで源泉徴収事務をやったことがないという事業者
目次

外部の人間への報酬・料金なども対象

源泉徴収は、負担者(源泉徴収される人)とは別の者(源泉徴収義務者)が納税する必要があります。

上場企業などは源泉徴収の業務フローが確立されているので問題ないと思いますが、他者の税金を代わりに納税するので意識も薄くなりがちで、設立当初の法人などは源泉徴収漏れに要注意です。

従業員を採用しているときに「従業員へ支払う給料」から源泉徴収しなければならないことは一般常識として比較的イメージしやすいと思いますが、外部の人間(主に個人)に何かを発注したときも、発注した側が源泉徴収義務者として源泉徴収しなければならない場合があります。

具体例を挙げます。

  • 原稿料
  • 作曲の報酬
  • デザインの報酬
  • 講演を依頼した場合の報酬
  • 個人の弁護士や税理士に対する報酬
  • スポーツ選手の業務に関する報酬

源泉徴収しなくて良い場合

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支払側と受取側源泉徴収
個人(源泉徴収義務あり)⇒個人該当する取引の場合は必要
個人(源泉徴収義務なし)⇒個人不要
個人(源泉徴収義務あり)⇒法人ほとんどの場合は不要
個人(源泉徴収義務なし)⇒法人不要
法人⇒個人該当する取引の場合は必要
法人⇒法人ほとんどの場合は不要

以下のいずれかの四角枠内の要件全てに当てはまる場合は、それぞれ源泉徴収不要です。

  • 報酬等の支払者=個人
  • 給与を支払う相手がいない
  • 報酬等の支払先≠ホステスやコンパニオン等
  • 報酬等の支払者=個人
  • 給与を支払う相手(従業員)がいるが、支払相手が常時2人以下の家事使用人のみ
  • 報酬等の支払先≠ホステスやコンパニオン等

(源泉徴収義務)

第二百四条 居住者に対し国内において次に掲げる報酬若しくは料金、契約金又は賞金の支払をする者は、その支払の際、その報酬若しくは料金、契約金又は賞金について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない

  原稿、さし絵、作曲、レコード吹込み又はデザインの報酬、放送謝金、著作権(著作隣接権を含む。)又は工業所有権の使用料及び講演料並びにこれらに類するもので政令で定める報酬又は料金

  弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、司法書士、土地家屋調査士、公認会計士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、測量士、建築士、不動産鑑定士、技術士その他これらに類する者で政令で定めるものの業務に関する報酬又は料金

  社会保険診療報酬支払基金法(昭和二十三年法律第百二十九号)の規定により支払われる診療報酬

  職業野球の選手、職業けん闘家、競馬の騎手、モデル、外交員、集金人、電力量計の検針人その他これらに類する者で政令で定めるものの業務に関する報酬又は料金

  映画、演劇その他政令で定める芸能又はラジオ放送若しくはテレビジョン放送に係る出演若しくは演出(指揮、監督その他政令で定めるものを含む。)又は企画の報酬又は料金その他政令で定める芸能人の役務の提供を内容とする事業に係る当該役務の提供に関する報酬又は料金(これらのうち不特定多数の者から受けるものを除く。)

  キャバレー、ナイトクラブ、バーその他これらに類する施設でフロアにおいて客にダンスをさせ又は客に接待をして遊興若しくは飲食をさせるものにおいて客に侍してその接待をすることを業務とするホステスその他の者(以下この条において「ホステス等」という。)のその業務に関する報酬又は料金

  役務の提供を約することにより一時に取得する契約金で政令で定めるもの

  広告宣伝のための賞金又は馬主が受ける競馬の賞金で政令で定めるもの

 前項の規定は、次に掲げるものについては、適用しない

  (一部省略)

  前項第一号から第五号まで並びに第七号及び第八号に掲げる報酬若しくは料金、契約金又は賞金のうち、第百八十三条第一項(給与所得に係る源泉徴収義務)の規定により給与等につき所得税を徴収して納付すべき個人以外の個人から支払われるもの

所得税法より抜粋

(源泉徴収義務)

第百八十三条 居住者に対し国内において第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等(一部省略)の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。

 法人の法人税法第二条第十五号(定義)に規定する役員に対する賞与については、支払の確定した日から一年を経過した日までにその支払がされない場合には、その一年を経過した日においてその支払があつたものとみなして、前項の規定を適用する。

(源泉徴収を要しない給与等の支払者)

第百八十四条 常時二人以下の家事使用人のみに対し給与等の支払をする者は、前条の規定にかかわらず、その給与等について所得税を徴収して納付することを要しない

所得税法より抜粋

支払相手が個人なのか法人なのか不明

支払を受ける者が研究会、劇団などの団体で、個人か法人かが明らかでない場合は、その支払を受ける者が、法人税を納める義務があることまたは定款、規約、日常の活動状況などから、団体として独立して存在していることを明らかにした場合は法人として取り扱い、そうでなければ個人として取り扱います。

国税庁HP『No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは』より抜粋

支払先に、上記の黄色ハイライトの内容を確認して、確認結果により判断します。

個人(源泉徴収義務あり)が個人に支払った場合

「従業員を3人以上雇用しており給与を支払っている個人事業主」が、「個人の弁護士」に報酬を支払ったようなケースを例とします。

支払側の会計処理

債務確定時(4月5日)

弁護士報酬500,000未払金550,000
仮払消費税50,000

「債務確定時」=「弁護士から依頼者へのサービス提供が完了した日」です。

支払時(5月20日)

未払金550,000現金預金498,950
源泉税預り金51,050

「支払の際」に徴収するのでこのタイミングで源泉徴収します。

弁護士が受け取るのは、源泉徴収されたあとの金額=498,950円です。

第二百四条 居住者に対し国内において次に掲げる報酬若しくは料金、契約金又は賞金の支払をする者は、その支払の際、その報酬若しくは料金、契約金又は賞金について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。

(一部省略)

所得税法 より抜粋

納付時(6月10日)

預り金51,050現金預金51,050

源泉徴収した所得税および復興特別所得税は、原則として、給与などを実際に支払った月の翌月10日までに国に納めなければなりません。

ただし、給与の支給人員が常時10人未満の源泉徴収義務者は、源泉徴収した所得税および復興特別所得税を、半年分まとめて納めることができる特例があります。

これを納期の特例といいます。

国税庁HP『No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例』より抜粋

受取側の会計処理

サービス提供完了時(4月5日)

未収金550,000売上500,000
仮受消費税50,000

入金時(5月20日)

普通預金498,950未収金550,000
事業主貸51,050

天引きされた源泉所得税51,050円は、租税公課(必要経費)ではなく事業主貸勘定となります。

必要経費になる租税公課は、以下のようなものです。

  • 事業税、固定資産税、自動車税、不動産取得税、登録免許税、印紙税などの税金
  • 商工会議所、商工会、協同組合、同業者組合、商店会などの会費、組合費又は賦課金

なお、次のような租税公課については、それぞれ次のようになります。

  • 所得税及び復興特別所得税、相続税、住民税、国税の延滞税・加算税、地方税の延滞金・加算金、罰金、科料、過料などは、必要経費になりません
国税庁『確定申告書等作成コーナー』 より抜粋

個人(源泉徴収義務なし)が個人に支払った場合

「一人で自営業をやっている個人事業主」が、「個人の弁護士」に報酬を支払ったようなケースです。

支払側の会計処理

債務確定時(4月5日)

弁護士報酬500,000未払金550,000
仮払消費税50,000

支払時(5月20日)

未払金550,000現金預金550,000

納付時(6月10日)

仕訳なし

受取側の会計処理

サービス提供完了時(4月5日)

未収金550,000売上500,000
仮受消費税50,000

ここで500,000円全額は、弁護士の事業所得の収入金額に計上されているので、この500,000円に係る所得税は、確定申告時に納税することとなります。

入金時(5月20日)

普通預金550,000未収金550,000

法人が個人に支払う場合

会計処理としては「個人(源泉徴収義務あり)」が個人に支払うケースと大体同じです。

毎回、源泉徴収が必要となる取引かどうか確認しなければなりません。

経理部門が存在する法人であれば源泉徴収事務を専業でやる担当者がいるので大丈夫と思いますが、小規模な法人で、経理担当者が存在しないような法人は源泉徴収漏れが生じるリスクがあるので要注意です。

以下のような支払をするときは必ず源泉徴収が必要でないかどうかチェックしましょう。

報酬・料金等の支払を受ける者が個人の場合の源泉徴収の対象となる範囲

1 原稿料や講演料など

ただし、懸賞応募作品等の入選者に支払う賞金等については、一人に対して1回に支払う金額が50,000円以下であれば、源泉徴収をしなくてもよいことになっています。

2 弁護士、公認会計士司法書士等の特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金

3 社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬

4 プロ野球選手、プロサッカーの選手、プロテニスの選手、モデルや外交員などに支払う報酬・料金

5 映画、演劇その他芸能(音楽、舞踊、漫才等)、テレビジョン放送等の出演等の報酬・料金や芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金

6 ホテル、旅館などで行われる宴会等において、客に対して接待等を行うことを業務とするいわゆるバンケットホステス・コンパニオンやバー、キャバレーなどに勤めるホステスなどに支払う報酬・料金

7 プロ野球選手の契約金など、役務の提供を約することにより一時に支払う契約金

8 広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金

国税庁HP『No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは』より抜粋

法人に対して支払う場合

馬主である法人のみ対象

源泉徴収の対象となる取引は、受け取る側が個人である場合がほとんどですが、「馬主である法人」に支払う競馬の賞金だけは例外です。

この場合は源泉徴収が必要となります。

Q

税理士法人に支払う税理士報酬や弁護士法人に支払う弁護士報酬について、源泉徴収の必要がありますか。

A

源泉徴収の対象となる税理士報酬や弁護士報酬は、個人の税理士や弁護士に支払われるものに限られますので、個人の税理士や弁護士に支払われるものは源泉徴収を要しますが、内国法人に該当する税理士法人や弁護士法人に支払われるものは、源泉徴収を要しません。
なお、内国法人に支払う報酬・料金等で源泉徴収の対象となるものは、馬主に支払われる競馬の賞金のみです。

(所法204)

国税庁HP『No.2798 弁護士や税理士等に支払う報酬・料金等』より抜粋

弁護士法人が支払先のとき

なお、弁護士などの「士業」と呼ばれる職業に支払う報酬は源泉徴収の対象ではありますが、弁護士法人などであった場合(個人の弁護士でなかった場合)には、源泉徴収は不要です。

税理士法人等に報酬を支払った場合
Q

税理士法人に支払う税理士報酬や弁護士法人に支払う弁護士報酬について、源泉徴収の必要がありますか。

A

源泉徴収の対象となる税理士報酬や弁護士報酬は、個人の税理士や弁護士に支払われるものに限られますので、個人の税理士や弁護士に支払われるものは源泉徴収を要しますが、内国法人に該当する税理士法人や弁護士法人に支払われるものは、源泉徴収を要しません
なお、内国法人に支払う報酬・料金等で源泉徴収の対象となるものは、馬主に支払われる競馬の賞金のみです。

(所法204)

国税庁HP『No.2798 弁護士や税理士等に支払う報酬・料金等』より抜粋

源泉徴収し忘れたとき

ちなみに「納付し忘れたからあとは相手(源泉徴収される側)に何とかしてもらおう」とすることはできません。

納付し忘れたとしても「源泉徴収義務者が」最後まで責任を持って対応することになりますし、ペナルティも源泉徴収義務者に対して課されます。

(源泉徴収義務者)

第六条 第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等の支払をする者その他第四編第一章から第六章まで(源泉徴収)に規定する支払をする者は、この法律により、その支払に係る金額につき源泉徴収をする義務がある。

所得税法より抜粋

(源泉徴収に係る所得税の徴収)

第二百二十一条 第一章から前章まで(源泉徴収)の規定により所得税を徴収して納付すべき者がその所得税を納付しなかつたときは、税務署長は、その所得税をその者から徴収する

所得税法より抜粋

源泉徴収する金額はいくら?

税込か税抜か

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請求書上の表記税額計算の基礎
税込税込
税抜税抜でも差し支えない

源泉税の計算の基礎となる金額は、550,000円(税込)と500,000円(税抜)どちらにすればよいか迷いますが、上記の通りです。

(一部省略)

弁護士や税理士などに報酬を支払った場合には、所得税および復興特別所得税を源泉徴収することになっています。

この場合、源泉徴収の対象となる金額は、原則として、報酬・料金として支払った金額の全部、すなわち、消費税および地方消費税(以下「消費税等」といいます。)込みの金額が対象となります。

ただし、弁護士や税理士などからの請求書等に報酬・料金等の金額と消費税等の額とが明確に区分されている場合には、消費税等の額を除いた報酬・料金等の金額のみを源泉徴収の対象としても差し支えありません

(一部省略)

例えば、令和6年1月中の税理士からの請求書に、税理士報酬110,000円とだけ記載されていた場合には、源泉徴収税額は110,000円の10.21パーセント相当額である11,231円(1円未満切捨て)となります。

これに対して、税理士からの請求書に、税理士報酬100,000円、消費税等10,000円と記載されており、報酬金額と消費税等の額とが区分されている場合には、源泉徴収税額は税理士報酬100,000円の10.21パーセント相当額である10,210円となります。

国税庁HP『No.6929 消費税等と源泉所得税及び復興特別所得税』より抜粋

インボイス制度開始後においても、上記1の『請求書等』とは、報酬・料金等の支払を受ける者が発行する請求書や納品書等であればよく、必ずしも適格請求書(インボイス)である必要はありませんので、適格請求書発行事業者以外の事業者が発行する請求書等において、報酬・料金等の額と消費税等の額が明確に区分されている場合には、その報酬・料金等の額のみを源泉徴収の対象とする金額として差し支えありません

インボイス制度開始後の報酬・料金等に対する源泉徴収|国税庁

端数処理

(注)求めた税額に1円未満の端数があるときは、これを切り捨てます。

No.2798 弁護士や税理士等に支払う報酬・料金等|国税庁

手取契約だったとき

手取契約というのは、事実関係が不明瞭になりミスを誘発する原因になりやすいので、個人的にはおすすめましません。

もらった側が手取ベースで源泉税を計算して、自分の帳簿付けをするものですが、支払側との認識合わせをしていないのでやめた方が良いと考えます。

支払側と認識合わせをするとなると、そもそも手取契約にする意味もないので、初めから源泉徴収前の金額で契約をした方が良いでしょう。

手取契約をしている場合の支払金額等の計算方法は以下のとおりです。

1 税率が10.21%の場合   手取額÷0.8979=支払金額
※0.8979=1-10%×102.1%
2 二段階税率の適用がある場合(手取額が897,900円超の場合に限ります。)
(手取額-102,100)÷0.7958=支払金額
※0.7958=1-20%×102.1%
※二段階税率は、支払金額が100万円を超える場合に、100万円までは10.21%で、100万円を超える部分が20.42%の税率になります。

したがって、原稿料の報酬を手取契約10万円で支払う場合の支払金額等は、以下のように計算します。

支払金額:100,000円÷0.8979=111,370円
源泉徴収税額:111,370円×10.21%=11,370円
(1円未満の端数は切り捨てます。)
手取額:111,370円-11,370円=100,000円

(所基通181~223共-4、181~223共-5、復興財確法8、9、10、28、31)

No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは|国税庁

参考元情報

No.6929 消費税等と源泉所得税及び復興特別所得税|国税庁 (nta.go.jp)

No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例|国税庁 (nta.go.jp)

No.2793 報酬・料金等の源泉徴収義務者|国税庁 (nta.go.jp)

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/aramashi2022/pdf/07.pdf

No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは|国税庁 (nta.go.jp)

その他参考コラム

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