一時所得と雑所得の違いについて根拠を交えて解説|澁谷税理士事務所

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雑所得

簡単に言えば、雑所得=「その他」です。

第三十五条 雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう。

所得税法 より抜粋

利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得」に該当しないかどうかの判断は比較的簡単です。

よって、雑所得かどうかの判断は、一時所得かどうかの判断とほぼ同義だと考えることができます。

一時所得

第三十四条 一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、

営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で

労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないもの

をいう。

所得税法 より抜粋

全部で3つの要件があります。

これらは「or」の関係ではなく「and」の関係であると考えられますので、全て満たしている必要があります。

「その他」である

利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得かどうか、です。

これは判断が容易です。

ここに雑所得が含まれていないことに留意して下さい。

「営利目的の継続的行為から生じた所得」以外

個人事業を営んでいる方は「営利目的の継続的行為」を行っているとお考え下さい。

他にも例えば以下のようなものが該当すると考えられます。

(1) 動産(一部省略)の貸付けによる所得

(2) 工業所有権の使用料(一部省略)に係る所得

(3) 温泉を利用する権利の設定による所得

(4) 原稿、さし絵、作曲、レコードの吹き込み若しくはデザインの報酬、放送謝金、著作権の使用料又は講演料等に係る所得

(5) 採石権、鉱業権の貸付けによる所得

(6) 金銭の貸付けによる所得

(7) 営利を目的として継続的に行う資産の譲渡から生ずる所得

(8) 保有期間が5年以内の山林の伐採又は譲渡による所得

所得税基本通達35-2『業務に係る雑所得の例示』 より抜粋

要は「事業規模ではないがビジネスとしてやっているもの」をイメージ下さい。

副業のせどりやウーバー配達などもこれに該当すると考えられます。

一時の所得

所得源泉(その所得を生み出す源)が無いものがこれに該当すると考えられます。

例えば前述の例示のうち「(6)金銭の貸付けによる所得」であれば、「貸し付けている金銭」が「利子(所得)」を生み出しています。

他にもアフィリエイトブログやYouTube動画なども、「所得を生み出す源」であると考えられます。

「労務その他の役務又は資産の譲渡」の対価としての性質を有しない

「対価としての性質がある例示」を参考に考える

「その対価を獲得するために自分が何か相手にしてあげているかどうか」です。

イメージしづらいと思いますので、「対価としての性質がある」と思われる例を挙げます。

(1) 法人の役員等の勤務先預け金の利子で利子所得とされないもの

(2) いわゆる学校債、組合債等の利子

(一部省略)

(6) 人格のない社団等の構成員がその構成員たる資格において当該人格のない社団等から受ける収益の分配金(一部省略)

(7) 法人の株主等がその株主等である地位に基づき当該法人から受ける経済的な利益で、24-2により配当所得とされないもの

(一部省略)

(10) 就職に伴う転居のための旅行の費用として支払を受ける金銭等のうち、その旅行に通常必要であると認められる範囲を超えるもの

(11) 役員又は使用人が自己の職務に関連して使用者の取引先等からの贈与等により取得する金品

(一部省略)

所得税基本通達35-1『その他雑所得の例示』 より抜粋

Aは、B財団が主催するマラソン大会に出場し、大会記録を更新して1位入賞という成績を収めた結果、

1位入賞賞金及び記録更新賞金の支払を受けています。これらの賞金は、B財団が主催するマラソン大会で入賞等をしたことに伴いB財団から支払われるものであることを踏まえると、B財団に対する役務の対価又はその役務に付随して取得するものと認められることから一時所得には該当せず、雑所得に該当します。
 一方、褒賞金については、C社団が記録を更新した選手に対し褒賞するために支払われるものであることから、C社団に対する役務の対価として支払われたものとは言えず、また、継続して支給されるものでもないことから、一時所得に該当します。

国税庁HP『マラソン大会の賞金・褒賞金の課税関係』 より抜粋

これは私見ですが、様々な例を抽象化してみると、「対価としての性質があるかどうか」は以下の全てを満たしているかどうかが1つの指標になるのではないかと思います(ただし、全て満たしているように見えるものでも「対価性が無い」とされている例示もあるので参考程度で捉え下さい)。

  • 何らかの「労力・負担・地位」(=広義の「役務」)が存在する
  • 「役務」の提供先=「対価」の付与者 である
  • 「役務」を提供すれば「対価」を獲得できることが確実である

前述の例に当てはめてみます。加筆箇所をイタリック体太字で記載します。

(1) 法人の役員等の勤務先(役務の提供先)預け金(負担=役務)の利子で利子所得とされないもの

(2) いわゆる学校債、組合債等(地位=役務)の利子

(一部省略)

(6) 人格のない社団等の構成員がその構成員たる資格(負担を伴う地位=役務)において当該人格のない社団等(役務の提供先)から受ける収益の分配金(一部省略)

(7) 法人の株主等がその株主等である地位(負担を伴う地位=役務)に基づき当該法人(役務の提供先)から受ける経済的な利益で、24-2により配当所得とされないもの

(一部省略)

(10) 就職に伴う転居のための旅行(労力=役務)の費用として支払を受ける金銭等のうち、その旅行に通常必要であると認められる範囲を超えるもの

(11) 役員又は使用人が自己の職務(労力=役務)に関連して使用者の取引先等(役務の提供先)からの贈与等により取得する金品

(一部省略)

所得税基本通達35-1『その他雑所得の例示』 より抜粋

Aは、B財団が主催するマラソン大会に出場し、大会記録を更新して1位入賞という成績を収めた結果、

1位入賞賞金及び記録更新賞金の支払を受けています。これらの賞金は、B財団が主催するマラソン大会で入賞等をしたこと(労力=役務)に伴いB財団(役務の提供先)から支払われるものであることを踏まえると、B財団に対する役務の対価又はその役務に付随して取得するものと認められることから一時所得には該当せず、雑所得に該当します。
 一方、褒賞金については、C社団が記録を更新した選手に対し褒賞するために支払われるものであることから、C社団に対する役務の対価として支払われたものとは言えず、また、継続して支給されるものでもないことから、一時所得に該当します。

国税庁HP『マラソン大会の賞金・褒賞金の課税関係』 より抜粋

こうして見ると、「対価をくれる人」に対して、何か具体的な仕事をして「労力」を費やしていたり、お金を拠出するなどの具体的な「負担」が生じている、あるいは何らかの負担を伴って手に入れた「地位」が存在していることが分かると思います。

つまり、仮に何かしていたとしても、それが「労力」や「負担」、「地位」でないのであれば、「役務」とは言えないものと考えられます。

対価としての性質がない例示を参考に考える

以下は一時所得の例示ですので、全て「対価としての性質」が無いはずのものです。

ところが対価としての性質があるように見えるものもちらほらあります。加筆箇所をイタリック体太字で記載します。

次に掲げるようなものに係る所得は、一時所得に該当する。(一部省略)

(一部省略)

(4) 令第183条第2項《生命保険契約等に基づく一時金に係る一時所得の金額の計算》に規定する生命保険契約等(契約に基づく地位=役務?)に基づく一時金(業務に関して受けるものを除く。)

及び令第184条第4項《損害保険契約等に基づく満期返戻金等》に規定する損害保険契約等に基づく満期返戻金等

(一部省略)

(6) 人格のない社団等の解散により受けるいわゆる清算分配金又は脱退により受ける持分(構成員としての地位=役務?)の払戻金

(7) 借家人が賃貸借の目的とされている家屋の立退き(労力=役務?)に際し受けるいわゆる立退料

(一部省略)

(8) 民法第557条《手付》の規定により売買契約が解除された場合に当該契約の当事者(契約当事者としての地位=役務?)が取得する手付金又は償還金(業務に関して受けるものを除く。)

(一部省略)

(12) 地方税法第41条第1項《個人の道府県民税の賦課徴収》、同法第321条第2項《個人の市町村民税の納期前の納付》及び同法第365条第2項《固定資産税に係る納期前の納付》の規定により交付を受ける報奨金(業務用固定資産に係るものを除く。)

(一部省略)

所得税基本通達34-1 より抜粋

社内提案制度等において、事務や作業の合理化、製品の品質の改善や経費の節約等に寄与する工夫、考案等(労力=役務?)をした人に対して支給される場合には、次のように取り扱われます。

(一部省略)

(2) 通常の職務の範囲外である場合で、一時に支給されるものは一時所得

(一部省略)

国税庁HP『No.2592 使用人等の発明に対して報償金などを支給したとき』 より抜粋

【照会要旨】

 A市では、市外に在住する者から1万円以上の寄附を受けた場合、この寄附に対する謝礼として、市の特産品(3,000円程度)を送ることとし、総務省からふるさと納税の対象となる団体の指定を受けています。
 この場合の寄附者が受ける経済的利益について、課税関係は生じますか。

【回答要旨】

 寄附者が特産品を受けた場合の経済的利益は、一時所得に該当します。なお、その年中にこの特産品(3,000円程度)に係る一時所得のほかに一時所得に該当するものがないときには、課税関係は生じません。

 所得税法上、各種所得の金額の計算上収入すべき金額には、金銭以外の物又は権利その他経済的利益の価額も含まれます(所得税法第36条第1項)。
 ふるさと納税(条件に沿った負担=役務?)の謝礼として受ける特産品に係る経済的利益については、所得税法第9条《非課税所得》に規定する非課税所得のいずれにも該当せず、また、地方公共団体は法人とされていますので(地方自治法第2条第1項)、法人からの贈与により取得するものと考えられます。

国税庁HP『「ふるさと納税」を支出した者が地方公共団体から謝礼を受けた場合の課税関係』 より抜粋

結論として線引きは?

こうやって見ると正直、「わかるようなわからないような…」という感じです。

「対価性がある(と思われる)例示」を見て「こんなものも『役務』になるの?」と思われるものもあれば、「対価性がない例示」を見て、「なぜこれは『役務』扱いになっていないの??」と思われたのではないでしょうか。

実際のところ、この「対価としての性質」に関しては明確な線引きがあるわけではないため、判断が困難な場合も多々あります。

以下は税務大学校の研究資料ですが、一般の方にも納得感のある説明があります。

所得税法 34 条における「対価としての性質」という規定によって、「対価」と規定される場合よりもその範囲が拡張可能だとしても、それを無限に拡大していいというわけではないことは既述のとおり当然である。
 極端な例をあげれば、友人である A と B が毎年 5,000 円相当のお歳暮を互いに贈っていた(例えば A は B にビールの詰め合わせを贈り、B は Aにハムの詰め合わせを贈る)場合、A はハムの詰め合わせとして 5,000 円分の経済的利益を得ており、それは A が贈ったビールの詰め合わせの対価としての性質を有するとして雑所得とするようなことも考えられなくはない。その場合、もちろん、B においても同じ理由で同様の雑所得課税が発生することになる。しかし、この例のような事実関係の下では(17)、このような解釈による雑所得課税を行うことは不適当であろう。
 では、「対価としての性質」で拡張される範囲はどこまでかということは、結局のところ社会通念によって決まるとしか言いようがなく、その社会通念とは最終的には判例の積み重ねによって確認されることになる。

国税庁HP『所得税法における「対価」の意義について』 より抜粋

「社会通念」≒「一般常識で考えると」です。

つまり、「対価としての性質があるかどうか」を無限に拡大解釈して「あれも対価性あり、これも対価性あり」と判断することは当然不適当で、じゃあ線引きはどのように行われるかというと、一般常識を逸脱していないかどうかで決まる、ということです。

「一般常識」に定義があるわけではないため、この辺りの議論まで行くと裁判所が最終的に判断することになります。

参考元情報

https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/04/09.htm

https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/02/51.htm

https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/102/02/index.htm

https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/02/37.htm

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