月次試算表は次の一手を決めるための材料です。SNS運用コンサルティング業は在庫を持たず、売上の多くが月額の運用代行料やコンサルティング料で積み上がるため、数字の動きが経営の状態をそのまま映します。
この記事では、月次試算表のどこを先に見るのか、過去3か月の数字から年間の着地をどう予測するのか、そして役員報酬や設備投資、納税資金の判断にどうつなげるのかを整理します。
数字を確認する作業ではなく、未来の判断に使う方法を知りたい方に向けた内容です。
月次試算表を未来の判断に使う考え方
月次試算表の価値は、過去を確認することではなく、残りの期間の着地を予測し、打ち手の期限に間に合わせることにあります。決算が終わってから分かったことは、すでに手を打てない状態になっているためです。
法人税や消費税の納税額、役員報酬の改定、設備投資のタイミングには、いずれも期限があります。期末の2か月前に利益の見込みが分かっているのか、決算書ができてから知るのかで、選べる選択肢の数が変わります。
国が公開している「ローカルベンチマーク」も、売上高増加率や営業利益率、労働生産性など6つの財務指標で自社の状態を見える化し、経営者と支援機関が対話するためのツールとして位置づけられています。月次試算表は、この見える化の入り口にあたる資料です。
ただし、最初はあまり難しいことは考えずに、「必要最低限の情報を試算表から読み取ること」を目指しましょう。
SNS運用コンサルティング業の試算表で見るべき3点
売上高の内訳
SNS運用コンサルティング業の場合、継続取引による売上と、スポット取引による売上が両立ちするケースが多いです。
売上高は合計額ではなく、毎月続く契約と単発の案件に分けて見ます。継続契約の月額合計が分かれば、来月以降の最低ラインの売上が読めるためです。
単発のキャンペーン支援や撮影案件が売上を押し上げている月は、合計額だけを見ると好調に見えます。しかし翌月に同じ案件はありません。継続契約分だけで固定費をまかなえているかどうかが、経営の安定度を示します。
外注費と人件費の合計
SNS運用コンサルティング業では、外注費と人件費の合計が原価の中心になります。デザイナー、動画編集者、ライターへの外注が増えると、売上が伸びていても利益が薄くなることがあります。
見るべきは実額ではなく、売上高に対する割合です。この割合が数か月にわたって上がり続けている場合は、案件ごとの見積り単価か、外注の使い方のどちらかに原因があります。
現預金残高と前受金
利益が出ていても資金が増えないケースは珍しくありません。年間契約で先に入金を受けている場合、その入金は売上ではなく前受金として負債に計上されるためです。
前受金が大きいときは、預金残高のうち「これから役務を提供して初めて自社のものになる金額」が含まれています。残高だけを見て使える資金と判断すると、資金繰りを見誤ります。
過去3か月の数字から年間の着地を予測する手順
固定費と変動費の切り分け
まず、販売費及び一般管理費を、案件数に関係なく発生する費用と、案件が増えると増える費用に分けます。役員報酬、家賃、ツールの月額利用料、社員給与は前者です。外注費や広告運用の実費は後者にあたります。
この切り分けを一度やっておくと、毎月の試算表から「今月の固定費はいくらだったか」がすぐ読めるようになります。
- 固定費と変動費の区別を普段からおこなっていない場合、試算表から有益な情報を得ることもできない。
損益分岐点となる売上高の逆算
固定費が分かれば、利益がゼロになる売上高を逆算できます。売上高から変動費を引いた粗利益の率で、固定費を割った金額が目安です。
たとえば粗利益率が60%、月の固定費が300万円であれば、月500万円の売上が分岐点になります。この金額と継続契約の月額合計を並べれば、あと何件の契約が必要かという具体的な目標に変わります。
年間の着地は、直近3か月の平均値をベースに、決まっている解約や新規契約を加減して見込みます。細かい精度よりも、期末までに利益がどのあたりに落ち着きそうかを早く把握することが重要です。
予測した利益を打ち手につなげる3つの場面
役員報酬の改定
役員報酬を損金にするには、法人税法上の要件を満たす必要があります。毎月同額を支給する定期同額給与の場合、通常の改定ができるのは、その事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3か月を経過する日までです。
つまり、期首から3か月を過ぎてから「今期は利益が出そうだから報酬を上げよう」と考えても、通常の改定としては認められません。前期の試算表の推移を見ながら、期首の時点で今期の報酬額を決めておく必要があります。
機材やソフトウェアの購入時期
撮影機材や編集用パソコン、業務用ソフトウェアの購入は、利益の見込みが立ってから検討する場面が多い支出です。青色申告をしている中小企業者等には、一定額未満の減価償却資産を取得した事業年度に全額を損金にできる特例があります。
令和8年4月1日以後に取得した資産については、対象となる取得価額が40万円未満に引き上げられました(改正前は30万円未満)。1事業年度あたりの合計額は300万円が上限で、適用期限は令和11年3月31日までとされています。
なお、購入しただけでは対象になりません。実際に事業で使い始めた日が属する事業年度での適用となるため、期末間際の購入は取得日と使用開始日の両方を記録しておく必要があります。
納税資金の準備
前期の数字は、今期の納税スケジュールを決めます。法人税では、前期の確定法人税額をもとに計算した予定申告額が10万円を超える場合、事業年度開始から6か月を経過した日以後に中間申告と納付が必要です。前期が12か月であれば、前期の確定法人税額が20万円を超えるかどうかが目安になります。
消費税も同様に、前事業年度の消費税の年税額(地方消費税を除く)が48万円を超えると中間申告の対象になります。また、消費税を納める義務があるかどうかは、原則として2期前の課税売上高が1,000万円を超えるかで判定し、前事業年度開始から6か月の課税売上高が1,000万円を超えた場合にも課税事業者となります。
売上が伸びている会社ほど、2期前の数字が今期の納税額を押し上げます。試算表の売上推移を見れば、いつから消費税の負担が発生するかを先に把握できます。
試算表を判断材料にするための月次の運用
試算表を経営に使うには、翌月の中旬までに前月分ができあがっている状態が目標になります。2か月遅れの数字では、判断したときにはすでに状況が変わっているためです。
見るときは、単月の金額だけでなく、前月と前年同月を横に並べます。金額の大小ではなく、変化の方向と速さを追うためです。
もっとも、勘定科目の分け方や前受金の処理が自社の実態に合っていないと、試算表を見ても判断材料になりません。数字の作り方と読み方は一体のものです。自社の試算表をどう読めばよいか迷っている段階であれば、決算を待たずに一度ご相談ください。単発でのご相談にも、継続して毎月の数字を一緒に確認する形にも対応しています。
- そもそも複式簿記ルールにより正確な記帳ができていなければ、試算表を「使う」こともできない。
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