月次試算表のどこを見れば経営の判断に使えるのか分からない、という声をよく聞きます。特にWEB制作業は、案件の検収時期によって月ごとの売上が大きく動くため、数字をそのまま並べても実態がつかみにくい業種です。
この記事では、WEB制作業の月次試算表について、過去の数字のどこを見て、来期の受注計画や人の採用にどうつなげるかを説明します。試算表の作り方や入力内容のチェック方法ではなく、経営者が判断に使うための見方に絞って解説します。
月次試算表で未来が読める3つの数字
売上ではなく粗利の推移
最初に見るのは売上高ではなく、売上から外注費を引いた粗利です。WEB制作業は案件ごとに外注の比率が変わるため、売上が伸びていても粗利が横ばいのまま、ということが起こります。
粗利の金額と、売上に対する粗利の割合を月ごとに並べてみてください。割合が下がり続けている場合、見積単価が外注単価の上昇に追いついていないか、社内で回せる工程を外に出しすぎている可能性があります。
ここが分かると、来期の見積単価をどこまで上げるべきか、どの工程を社内に戻すべきかという打ち手が具体的になります。売上目標だけを立てても、この割合が変わらなければ手元に残る利益は増えません。
- そもそも原価管理ができていなければ、粗利を確認することはできませんのでご注意ください。
ストック収入と固定費の関係
2つ目は、保守・運用・月額契約といった毎月入ってくる収入が、固定費をどこまで賄えているかです。
制作の売上は受注状況で大きく動きますが、人件費や家賃は毎月ほぼ同じ額が出ていきます。毎月の固定費のうち何割をストック収入でカバーできているかを見ておくと、新規の受注が止まった月にどれだけ耐えられるかが分かります。
この割合が低いままであれば、来期は新規制作の獲得だけでなく、既存顧客の保守契約をどう増やすかが課題になります。月次試算表は、その判断材料を毎月提供してくれる資料です。
手元資金の厚み
3つ目は、貸借対照表に載っている現預金です。損益計算書で利益が出ていても、入金より先に外注費や給与の支払いが来れば資金は減ります。
現預金の残高が、毎月出ていく固定費の何か月分にあたるかを把握しておくと、借入や設備投資の判断がしやすくなります。何か月分を確保すべきかは、案件の回収サイトや借入の返済額によって変わります。
前受金を受け取っている場合は注意してください。「手元にあるお金のうち、まだ仕事を提供していない分」が含まれているためです。
WEB制作業ならではの月次のブレと読み方
検収のタイミングで立つ売上
WEB制作の売上は、「制作物を引き渡した日」に計上するのが原則です。
そのため、3か月かけて作ったサイトの売上は、原則として、「完成して納品した月」に一度にまとまって立ちます。制作している2か月間は売上がほとんど計上されず、月次試算表の上では赤字に見えることもあります。
月ごとの数字だけで一喜一憂せず、3か月から6か月の合計で見る習慣をつけると、実態に近い形で業績をつかめます。
完成前の案件に先行して出るコスト
売上が立つ前に、外注費や人件費が先に出ていきます。この先行分をどう処理しているかで、月次の利益は変わります。
完成前の案件にかかった費用を仕掛品として資産に振り替えていれば、売上と費用の計上時期がそろい、月ごとの利益は実態に近づきます。振り替えていない場合、制作中の月は費用だけが計上されることになります。
過去の数字を来期の打ち手に変える手順
同じ項目の12か月分の比較
月次試算表は、1枚だけ見ても意味を読み取れません。同じ項目を12か月分、できれば前期・前々期と並べて初めて、増えているのか減っているのかが分かります。
経済産業省は、企業の経営状態を把握するツールとして「ローカルベンチマーク」を公開しています。財務面の6つの指標と、商流や業務フローといった非財務面の情報を組み合わせて自社の状態を確認する枠組みです。
自社の数字だけを眺めるより、こうした共通の物差しに当てはめたほうが、どの項目が弱いのかを見つけやすくなります。
数字が動いた月の出来事のメモ
数字だけを見ても、なぜ動いたのかは分かりません。粗利の割合が落ちた月に何があったのかを、その月のうちに書き残しておいてください。
大型案件の外注が重なった、担当ディレクターが抜けて進行が遅れた、といった出来事と数字を紐づけておくと、翌期に同じ状況が来たときに先回りして手を打てます。
これを半年続けると、月次試算表は過去の記録ではなく、来期の受注計画や採用判断の材料に変わります。
- 試算表とセットでこのメモをGoogle Workspaceなどに保存しておき、AIに分析させ、次の四半期の経営方針を決める、というやり方もおすすめです。
月次集計と月次決算の違い
| 項目 | 月次集計 | 月次決算 |
|---|---|---|
| 難易度 | 低い | 高い |
| 経理部門の設置 | 不要 | 一般的には必要 |
| 情報の精度 | 相対的に低め | 相対的に高め |
月次決算は、月次であろうと「決算」なので、非経理の方が簡単に習得できるものではありません。一般的には、社内に経理部門を設置することが前提になります。また、決算用の資料を日ごろから整えていなければ、月次決算をおこなうことはできません。部品(資料)がなければ、製品(決算)は作れないからです。
単なる「集計」のことを「決算」と誤って理解してしまっている方も多いため、これらは別物だということに注意しましょう。
経理部門未設置の法人の場合、まずは月次集計からきちんとおこなうところから始めましょう。
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